理系的発想からはじまる文学賞 第13回 日経「星新一賞」

受賞作品詳細

一般部門 グランプリ(星新一賞)

「ゲノムの塔」

しゃみずい

建設業の経営者として現場に立つ傍ら、脚本家・作家として活動。TRPG、マーダーミステリー、ストーリープレイングといった体験型コンテンツを軸に、物語とコミュニケーションの構造を主題とした作品を数多く発表している。ストーリープレイング創始者。日本マーダーミステリー作家協会共同代表。内閣府ムーンショット目標1「Internet of Brains」によるコミュニケーションプロジェクト『Neu World』にて、『瞳に棲む群青』を寄稿。代表作に『ヤノハのフタリ』『銀の瞳の君を求めて』他多数。

< 作者コメント >

この物語は、かれこれ20年ほど前に初夢で観たものが原案となります。となりで寝ている家内を叩き起こし、夢の内容をあーでもない、こーでもないと話し合ってメモを書き残しました。あの時は、これがどんな形式で世に出るかさっぱり判らずにおりましたが、まさか時を経て小説になり、そしてこれほどに晴れがましい賞をいただくとは。数奇な運命に目眩んでおります。もちろん、このたびの受賞は家内に捧げます。副賞も。

審査員コメント

大隅良典

人ゲノム上に大量に存在するトランスポゾンに着目して、生物の行動が外界から操作される最近の話題を例にとりながら、ゲノムの支配に迫る秀作

最相葉月

トランスポゾンと知性という未解明の生物学をふまえ愛を描くという発想に意表を突かれました。空想科学小説や『アルジャーノンに花束を』へのオマージュも感じられる文体に仕掛けがあり、一気に連れていかれた気分です。伏線回収も見事でした。

とり・みき

江戸川乱歩風告白分+アルジャーノン的な結末。人が寄生ウィルスに操られるというアイデアも珍しくはない。細部も略称などに凝りすぎたり言葉遊び的なレトリックがやや鼻につく。ストーリーの流れを疎外しているように自分には思えた。

松原仁

ヒトはトランスポゾンの寄生によって軌道エレベーターを開発した、さらにはヒトの知性そのものがトランスポゾンの寄生によって発生したというアイデアがとても面白い。弟子が恩師に対して書いた書簡という形式もこの内容にふさわしい。書簡の中で語られるカタツムリとバッタの寄生の話が効果を高めていると思う。

立原透耶

一読して『アルジャーノンに花束を』を思い浮かべた。知能に合わせて文体が変化していく様子、メール形式という表現など、アイデアはもちろん小説としても大変読み応えがあり、ラストでは感動させられた。

矢野寿彦

遺伝子やゲノムの脅威を深掘りした出色な作品です。最新テクノロジーに対峙する研究者の葛藤がとても上手に描けています。「電子書簡」という形式もが物語に息吹を与えています。

作品は、honto で無料配布しています。

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一般部門 優秀賞(アマダ賞)

「並行自己調停株式会社」

志縞 円

1991年秋田県生まれ。岩手大学農学部卒。
創業期から参画した都内企業にて、10年にわたり事業創出・成長、組織づくりに携わり、現在に至る。事業の未来を構想する過程でSFプロトタイピングに出会い、SFと物語が持つ未来構想の力に魅せられ、2025年より小説創作を開始。
ゲンロン大森望SF創作講座 第9期に参加中。
受賞歴:日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト2025 榎木洋子賞

< 作者コメント >

星新一先生の生誕100年にあたるこの年に、その名を冠した文学賞にて光栄な賞を頂き、大変嬉しく思います。 国語の時間に「おーい でてこーい」ではじめて星先生の作品に触れ、夢中で読み漁りました。
あのときの驚きとワクワクは、ずっと心に残っています。 今度は私もそれを届けられるように、SFと物語の持つ可能性を様々な形で探求してまいります。
関わってくださったすべての方々に感謝致します。

審査員コメント

大隅良典

地球、火星、仮想空間と3つの異なる世界で生きる自己が独立し、自由度を得た時の葛藤とその解決策を問う力作だが、3つの世界が描ききれておらずやや難解、葛藤がやや卑近に思える。

最相葉月

人間はそもそも矛盾した存在。では本当に分離したらどうなるか。複数身体システムという切り口はおもしろく引き込まれました。ただ並行というよりあくまでも地球の「私」が中心で、上部で管理しているように思いましたがどうでしょう。

とり・みき

端末同期的なアイデアは今風で、飛躍している分、過剰な説明がなく物語とも有機的に結びついている。文章はこなれていて描写力もあり皮肉やシャレも効いている。ただ、エンディングだけ突然情動的というかむりやり「よい感じ」に持っていった印象。

松原仁

地球・火星・仮想と分かれた「自分」が最初はうまくいっていたのが徐々に関係がおかしくなって分離をしたがその後再接続を選ぶという物語はとても新鮮であった。AIやロボティクスに通じるテーマでありながら、自分自身の中にある複数の「自分」の共存という普遍のテーマを扱っていると思う。

立原透耶

AI、身体性、自我の分裂と統一などさまざまな問題を巧みに用いており、かつ読み物としても面白くできていた。分裂した自我が地球、火星まではよくありそうだが、そこに仮想世界を加えたのが今風だと感じた。

矢野寿彦

人工知能(AI)が急速に進化する今だからこそ、身体性の意味を深く考えさせられました。意識がひとつにもかかわらず、3人の私が形成されていく過程が面白かったです。注文をつけるなら結末部分が冗長で作品のタイトルも再考したほうがいいでしょう。

作品は、honto で無料配布しています。

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一般部門 優秀賞(ULSコンサルティング賞)

「エリンネルング」

滝ノ内 理乃

大学で生物学を学び、現在は翻訳者として活動中

< 作者コメント >

尊敬する星新一先生にちなんだ賞をいただき、とてもうれしく思います。また、このような理系文学という賞を誕生させてくださった方々に感謝いたします。今回、AIの力を借りて初めて小説を書きました。AIとやりとりして小説を書くのが、とても楽しかったです。物語に登場させたような最先端技術を、人類が今後どのように使っていくのか、今まさに試されているように思います。

審査員コメント

大隅良典

そのまま映像として映画化ができそうな壮大なストーリー展開であり、この短編ですべてを語るのは難しかったのではないか。

最相葉月

人類と文化と記憶を守るため、物語を運ぶため、船と人間が共進化しながら旅を続けるというアイデアは奇想天外。冒頭から視覚的な描写に引き込まれましたが、要素が盛りだくさんで短い文字数では消化しきれず、長編向きの題材だと感じました。

とり・みき

ハイブリッドな混合体は「生物都市」の系譜だが、自己修復する宇宙船のディテール描写他ちりばめられたアイデアは面白い。ただ総じて壮大な長編のダイジェストのような語り口で、話の大きさと文字数のバランスが悪い。中長編で読みたい。

松原仁

知性を有する宇宙船というと映画「2001年宇宙の旅」のHAL9000を思い出す。HAL9000はかつてのAI研究の未来像であった。このエリンネルングという宇宙船はいまのAI研究の未来像なのかもしれない。人間とAIは友達になるのでもなく、敵対するのでもなく、同化していくのである。この作品はその可能性を考えさせてくれる。

立原透耶

一読して、これは長編のアイデアでは?と思った。もっと長いもので読んでみたいと思わせる力があった。宇宙船が「自己進化体」というのが、うまくラストにつながっていた。「記憶」だけでなく「創造性」を運ぶというのがよかった。

矢野寿彦

21世紀最大のバイオテクノロジーと言われるゲノム編集「クリスパー・キャス」を、AIと有機体を融合した自己進化体に応用するという着眼点は面白い。筋書きはよくできてますが、説明調なくだりが多いのが残念。タイトルの語源も気になりました。

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一般部門 優秀賞(審査員特別賞)

「独立相関士」

スドウ ナア

東京在住。ときどき小説を書いています。

< 作者コメント >

読んでも読んでも読み足りない、それが僕にとっての星新一の記憶です。 小学生だった僕が手にした星新一の物語は、欠けていたパズルのピースがはまるように、出会うべき時に出会えた、そういうものでした。 あの読書体験は、まるで恋に似ていて、時を忘れて夢中でページをめくったものです。 誰かの心に響く文章を書きたい、そんな気持ちが僕の中にはあるようです。次はもう少し長いお話を書くことでしょう。


イラスト:藤本将綱

審査員コメント

大隅良典

すべてが因果関係でなく相関関係で成り立っているという主張が、ストーリー展開の中で具体的に納得させられているか、やや説明不足の感があり、もう少し長い展開をして欲しい

最相葉月

因果関係ではなく相関関係で事象を記述する相関現象学という切り口は斬新で、何気ない日常に思いがけない角度から光が射し込むようでした。精神のとらえ方にも大きな気づきを与えるかもしれない。難解な記述があり、読者をもう少し意識していただければさらによくなったと思います。

とり・みき

優れた「短編小説」として冒頭から結末まで圧倒的。地の文での説明を排し謎を保存して行動描写が先行することでページターン力も高い。アクロバティカルな相関理論は下手に書くとトンデモになりそうだが洗練された文章がそう思わせない。この作品だけ別格と感じた。

松原仁

因果と相関はデータサイエンスで学ぶべき重要な概念である。また因果推論は現在のAIの有力な手段である。因果と相関は異なるものであるが、人間は相関を因果に見なしがちである。相関に焦点を当てたこの作品は独自の世界観に基づいたとても奇妙な味を感じさせてくれる。

立原透耶

飛び抜けて個性的な作品で、独自の世界を完全に作り上げていて、その点が高く評価された。相関マシンとしてのAIのように、複雑で多様な関係の中から相関を見つけ出す「相関士」というアイデアが秀逸。

矢野寿彦

データ社会の到来で科学における「相関関係」の重みが増しています。あらゆる物事には「理由」が存在しない社会を舞台にしたこの作品は、科学の本質そのものを問いかけたユニークはサイエンス・フィクションと言えます。

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ジュニア部門 グランプリ(星新一賞)

「虫は歌う、ぼくらとともに」

飯島 敬大

2014年7月19日神奈川県に生まれる。
立教小学校在籍中。
趣味は、読書、城めぐり、日本史探求、観劇、サッカー、ピアノ。

< 作者コメント >

星新一さんの作品に出合わせてくれた読書の授業に感謝しています。この物語は、100年後の小学校を想像しました。きっと、宿題や掃除当番のように毎日やることがあり、それは何かと考えました。天変地異が起きた後、人は死なないように生きるようになります。生きるために必要な事と不要な事が分かれる中、僕はミュージカルが好きなので、歌と踊りがない世界になってほしくないという思いを込めました。

審査員コメント

大隅良典

地球環境の問題を子供らしい視点で捉えており、場面の設定も深刻な問題をユーモアを交えて展開していて素晴らしい。

最相葉月

冒頭、酷暑の果てにある地球を想像し息苦しくなりました。一人一本の樹が命をつなぐというぎりぎりの日常から暗黒世界に転換するかと思いきや、歌と踊りが登場する意外性。絶滅するとしても人間は人間らしく絶滅したいという祈り、絶望の中の希望を感じました。

とり・みき

自分が生きるための自木を育てる発想が面白い。文章はいきいきとしていて描写の積み重ねで物語が進行しており解説的でないのもよい。理系的なアイデアも物語と分離しておらずちゃんと内容に奉仕している。総合力でジュニア部門では最高点をつけた。

松原仁

100年後の平地が暑すぎて高地に住み、各人が自分の木から酸素をもらってなんとか生きている厳しい状況の中で、歌って踊ることが楽しいという明るさの表現がとてもすばらしい。木に被害をもたらすアブラムシとそのアブラムシを食べる虫の話が効果的である。

立原透耶

百年後の世界がしっかりと創造されており、非常にリアルで分かりやすく、また「緑育省」などの独自のネーミングも素晴らしかった。子供らしい視点で描かれており、生き生きとした作品で、文句なしにグランプリに推した。

矢野寿彦

文句のつけようがありません。あっぱれです。酸素がなくなるといつ死ぬかわからない。そんな死に直面する世の中だからこそ、生の大切さ、喜びを実感できるのでっしょう。「命の木」「自木」「緑育省」などのワーディングも生きています。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 準グランプリ

「未来販売機」

大内 小雨

放浪癖のある造形作家の母に連れられ、幼少期は旧ユーゴスラビア界隈を転々。帰国後、ヤドカリ生活へ。保育園中退、小学校中退、中学校は行こうとする気さえない。最終学歴は一体なんだろう。考える暇があったら何か美味しいものを食べたいアナーキー中学生。11歳でnote「こあのみずたまり」開設。掌編小説や詩、絵、創作写真などを1日1話連投中。もうすぐ1000話!「小雨」の名付け親である母は私を「オマゴロペンポチロドリゲス」と呼ぶ。母の母は母を「サンドロボチボチ」と呼ぶ。これは遺伝なのか否か。錆と白の保護猫たちを撫でくりまわす日常。うちのこたちが世界で一番かわいいと思っている。一番こわいことは死ぬこと。毎日楽しすぎるので500歳まで生きたい。

< 作者コメント >

あ、ん?えー!・・・しばらく実感がつかめず、受賞のことを知った1日は、ずっと口が開きっぱなしでした。開きすぎて唇がガサガサになりました。 ほんとうに、うれしいです。ありがとうございます。くる日もくる日も星新一さんの本を読み漁っていた、小さい頃の私におしえてあげたいです。なんて言うかな。信じてくれないかもしれません。

審査員コメント

大隅良典

短い作品で、完成度が高い。100年後までは見通せたのに、500年後がどうしても見ることができない。さて何が起こっているのだろうと投げかけている。

最相葉月

自動販売機で未来を買うというとてもシンプルなアイデアから徐々に期待が高まり、最後の2行でぞっとする。うまい。星新一の未発表作を発見したようでした。好きな作品です。これからもどんどん書いてください。

とり・みき

潔く短くまとめて不条理感漂うショートショートらしい作品となった。星新一の作風を思えばもっともその名にふさわしい作品かもしれない。今回いちばんマンガで描いてみたいと思った。最後は結末はこのままにもっと怖い余韻が出せたのではと思う。

松原仁

短い小説ながら、1円の1年後から始まって10円の10年後、100円の1000年後と進んでいって最後の500円の500年後の未来が衝撃的な結末を迎えるというとてもよくできたショートショートになっている。100年後から500年後の間に何があったのかを読者に考えさせる設定もすばらしい。

立原透耶

星新一賞にふさわしい展開とオチで、読みやすくこなれていた。これぞショートショートという作品。百年後の未来が過去と同じ環境破壊された世界になっていて、それが次の世界への伏線になっているのがお見事。

矢野寿彦

「短く」「不思議で」「きれのいいオチがある」。星新一作品を彷彿させる、まさしくこれぞショートショートにふさわしい作品です。1円玉は「チャリーン」10円玉は「ジャリーン」といったきめ細かい表現がのちの500円投入に生きており、その手腕に驚かされます

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 優秀賞

「夢の灯」

菊池 康太

2011年生まれ
世田谷区立瀬田中学校 在学 水泳部所属
趣味:書道・弓道・漫画・アニメ・音楽鑑賞

< 作者コメント >

普段、あまり小説を読まない私ですが、友人に勧められて初めて挑戦してみました。何を書こうかと迷ったとき、睡眠時間を『もったいない』と感じてしまう自分自身の考えから、もしも睡眠が必要のない時代がきたら、どうなるだろうかと想像して書いた物語です。現実ではありえない事も書くことができる面白さを実感しました。
この度は、素晴らしい賞をいただけましたこと、大変光栄に存じます。受賞に関しまして、審査員の皆様をはじめ、校正してくださった方、メールや電話に気づかなかった私に対して、連絡を諦めずに、対応してくださった担当者の方、連絡を取り持ってくださった学校の先生方、携わってくださった皆様に、心より感謝申し上げます。

審査員コメント

大隅良典

睡眠を薬で制御し効率を追求する社会に、寝てみる夢の世界の豊かさ、睡眠の意味が次第に理解され、広がっていくさまを見事に描いた作品であり、それぞれの場面が目に浮かぶ。

最相葉月

導入から何が起こるのだろうと引き込まれました。眠らないとは夢を知らないということ。夢が人間に与えてきたものの豊かさを知っていくという素直な作品。そもそもなぜ睡眠が排除されたのだろう。その理由は知りたかったかな。

とり・みき

他の選者の評価は高かったが全否定から全肯定へ話が一方向にしか流れない点に物足りなさを感じた。親の活かし方、茂のおぼろげな正体ももう一工夫ほしい。役割が判然としない。

松原仁

最近の世の中はコスパやタイパという言葉のようにパフォーマンスの効率が大事とされている。みんなが睡眠をしないで効率的に生きる社会の中で、睡眠によって夢を見るという幸せな時間を過ごせることの意義をとてもうまく語っている。人間にとって本当に大事なことは何かを改めて考えさせてくれる。

立原透耶

バーとかカクテルとかとても大人っぽい設定で驚いた。現代の忙しい生活やカフェイン飲料などの世相を反映しており、まさにワークライフバランスという問題を描いていた。本当に人間は睡眠が必要ですよね。

矢野寿彦

主人公と老人との会話、やり取りがテンポよく、関係を築く過程がうまく表現されています。心温まる物語だと思います。「睡眠は時間の無駄」と称した効率追求の現代社会を辛らつに批判しており、痛快でした。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 優秀賞

「となりの星は」

能美 にな

2014年福岡県生まれ。
明治学園小学校6年生。
コロナ禍で入学式が行われず自宅から出られない中、執筆活動を始める。初めて書いた創作作文を読んだ3年生時の担任の先生からすすめられ、星新一「きまぐれロボット」と出合う。

主な受賞歴(創作)
令和2年「宇宙の日」記念行事全国小・中学生作文絵画コンテスト
グランプリ 「ムーンカプセル」
令和3年「宇宙の日」記念行事全国小・中学生作文絵画コンテスト
審査員特別賞 「うちゅう花火」
令和5年「宇宙の日」記念行事全国小・中学生作文絵画コンテスト
グランプリ 「惑星火風雲」
令和7年「宇宙の日」記念行事全国小・中学生作文絵画コンテスト
グランプリ 「月の踊り子」

< 作者コメント >

大好きな星新一先生のお名前を冠した賞をいただき、大変光栄です。
小学校生活最後の記念にと、小学生ならではの視点からこの物語を書きました。修学旅行のときのわくわく感や、友達と一緒につい調子に乗ってしまう様子を思い浮かべて楽しんで読んでいただけるとうれしいてす。
星新一賞関係者の皆様、そして私と星新一先生の本を出会わせてくれた当時の担任の下司悟先生に、改めて感謝申しあげます。

審査員コメント

大隅良典

月から地球へ修学旅行で訪れた子どもと地球の子どもたちの交流を、子どもたちの動きを通して描ききった秀作。

最相葉月

100年後にこんな修学旅行があるといいな。でも青い地球を見ながら育った月の子どもたちは空に浮かぶ月を見て何を感じただろう。灰色でクレーターだらけの故郷に帰りたいと思うのかどうか。そんな視点もあるともっとおもしろくなったかも。

とり・みき

月うさぎ、地球のことわざの流行りなどの細かいアイデアが面白い。地球と月での真逆のトレンドの対比で教訓的な戒めも提示しつつ、しかし双方争いにならないのがいい。大きな事件が起きるわけではないが起きていることの絵面だけで楽しい作品。

松原仁

人類が地球と月に分かれて住んでいる状況で月に住む小学6年生が修学旅行で初めて地球を訪れるという設定が面白い。月の子どもが地球に憧れて地球の子どもが月に憧れている中で、ランドセルが重くて後ろにひっくり返るというエピソードがとてもすばらしい。

立原透耶

月の子供たちを主人公に、重力の問題からランドセルへと話が発展する点や、子供たちの間ではやる独自の文化などよく練られて丁寧に描かれていた。タイトルもよく考えられており、素直な世界観が大変よかった。

矢野寿彦

月で生まれ、育った子供たちが初めて地球を訪れるワクワク感がとてもうまく描かれています。「隣の芝生は青い」は100年後の未来でも変わらないようです。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 優秀賞

「コウノトリパーク」

小笠原 快

2011年11月3日 青森県八戸市生まれ。

麻布中学校に在籍。
ココア共和国8月号佳作集I、同11月号傑作集I掲載。「第16回あなたに会いたくて生まれきた詩コンクール」で宗左近賞、「第五回丸山薫『帆・ランプ・鷗』賞」で帆・ランプ・鷗賞受賞。東京都在住。好きな作家は小山田浩子。

< 作者コメント >

星新一先生の作品は、私の読書人生の入り口でした。ショートショートの先駆者として、科学と文学の橋渡し役として、先生の後ろ姿に導かれてきた人が世界中にいる中で、先生の名を冠するこのような権威のある賞を受賞でき嬉しく思います。受賞という言葉の重みに釣り合うよう、これからも創作への積み重ねを絶やさぬようにして行きます。また、発表の場を与えてくださった新聞社の方、審査員の方々に、心から感謝いたします。

審査員コメント

大隅良典

教育のあり方を若い世代の眼から描こうとした力作だが、やや設定が複雑すぎて作者の主張が見えにくくなってしまった。

最相葉月

子どもだけが一人冷静に世界を観察している。祖父が教育に反対しながらも模型の開発に携わっていたことや、父親の教育が遅れたことはどう関係するのだろう。異質を正常と感じられない父親の異様さがかえって際立ちました。

とり・みき

物語の背景の過剰な説明はなく設定もよくわからぬ父子なのに場面が映像で浮かぶような描写力によって引き込まれていく。極めてストイックな筆致ながら決定的な乖離がいつのまにか起ち上がる。読者を選びそうだが自分は好みの作品。

松原仁

コウノトリパークというテーマパークに行った父親と息子の独特の雰囲気を持つ小説である。テーマパークでコウノトリを選んだ感性がすばらしい。「たのしいって、どういうことなの?」という子どものセリフが、AIによって便利になった未来社会のあり方を考えさせる。

立原透耶

息子を異質と見る、かつては異質だった父親の視点、淡々と世界を醒めた眼差しで見つめる息子の対比がよかった。「教育」問題に切り込み、未来の「教育」の問題点を描くことで、その社会の問題点をも浮き彫りにしている。

矢野寿彦

教育や父子を巡るディストピア小説です。100年後に訪れるであろう、無機質な管理社会は読んでいてとても不気味でした。節目節目の父親の言動、ふるまいには少々、いらだちを覚えた次第です。

作品は、honto で無料配布しています。

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第13回星新一賞総評

日経「星新一賞」は13回目を迎えた。過去のグランプリ作品の書籍化という素晴らしい出来事もあった。またプロの作家への登竜門としての役割も生まれた。この賞を支えてくださる多くの皆様、審査に参加してくださった皆様、そして毎回多くの作品を応募してくださった方々に感謝したいと思う。
今年は星新一生誕100年にあたる。それだけではなく、今年は極めて重要なことが起きた。歴史の転換点として記憶すべき年となった。それについては最後に触れることとして、まず、ジュニア部門。
「星新一賞」はアイディアや科学的な思考に重点を置くところに特徴がある。ジュニア部門に関しては、厳密な科学性を要求するのではなく、論理的な思考ということにとどめている。より自由な発想を促したいという思いから、そのように設定した。今回のジュニア部門は平均点以上の作品が揃った。このような状況では、突出した作品が少なくなる傾向があるのだが、今回は明らかに他の作品よりも優れた作品が数点あった。これらの作品を可能にした作者たちの力を高く評価したい。また。ジュニア部門は中学生以下を対象にしているので、完成度や思考の深さという意味では、小学生の応募者との間にどうしても大きな差が出てくる。けれども、今回は小学生の健闘が光った。その要因は発想の自由さということだったと思う。当然のことながら、作者の年齢や性別に関しては、完全に伏せられた状態で審査が行われているから、小学生の健闘は素晴らしいことだ。
テーマを見ると、気候変動を扱ったものが増えた。異常気象が話題になることが多かった結果だ。また、AIを扱ったものも増えたが、そこに新たな側面を感じさせるものは少なかった。学校や勉強、家族、友人といった身近な話題を扱った作品が目立ったが、逆にそれらのテーマと100年後という未来の状況という課題との整合性に疑問を感じる作品が目立った。100年後ということを厳密に考える必要はないが、現在との違いをどう示すことができるか、そこが問われているということだ。また既視感があるとされた作品もいくつかあったが、それは、応募者の年齢を考えると、問題というよりも、その作者の力量を示したことという見方もできる。もちろん、盗作は論外だが、過去の名作と同じようなアイディアを思いつくことができたということは素晴らしいことだと思うからだ。
歴史の転換点とやや大袈裟な言葉を使ったが、それは生成AIによる応募作品が増えたということだ。応募作品全体の4分の1弱が生成AIを使ったものだった。「星新一賞」は、当初から人類以外の作者の応募も受け入れることにしている。宇宙人の応募も歓迎するというのは、もちろんジョークだが、AIによる作品に大きな期待を寄せていた。それはAIの進歩に寄与するという意味もあった。生成AIの登場とその予想を超えた進歩は、想定外のことだったが、それでもAIによる作品については、一人一作品に限るといった規定があるにしろ、好意的な賞であることには変わりがない。そこにはAIによる作品は人間の手による作品には、まだ及ばないだろうという予測があったのも事実だ。ところが、今回、応募作品の上位にAIによる作品が複数入ってきた。もちろん審査ではそれがAIによるものかどうかは伏せられた状態で行われた。結果を見るとそれがAI作品かどうか、見分けることができないことが明らかになった。生成AIの進歩を考えると、これからも同様の手法による作品の応募が増加するのは確実だろう。
全ての作品が生成AIに依るものになってしまうという事態になれば、規定を再考する必要があるが、現状ではそこまで考える必要はないだろう。生成AIの使用については、小説を書く技術とは異なった技術が必要であるし、その結果として素晴らしい作品が生まれるとしたら、それはそれとして認めておかねばならない。またアイディアは素晴らしいのだが、それを小説という形にすることができないという人にとっては大きな助けになるだろう。
けれども、生成AIを使って応募する動機にはわからないところがある。実験や興味本位という動機はまだしも、賞金目当てというような動機で応募するのは、筋違いではないか。それだけは避けていただきたい。それは審査をしてくださる皆さんや他の応募者を否定することに連なるからだ。そして星新一という素晴らしい創造者の名を汚すことでもある。
星新一賞という場が人間とそれ以外の知性にとって有用な場になることを期待しておきたい。

日経「星新一賞」最終審査会 司会進行 鏡 明

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