受賞作品詳細

星新一賞

一般部門 グランプリ(星新一賞)

「繭子」

村上 岳

1998年北海道生まれ。名古屋大学工学部在籍。

< 作者コメント >
まったくSFではないですが、賞をいただけて嬉しいです。ありがとうございます!字数が足りないので中国語の部屋の話をします。中国語を知らない人が、決まった中国語の入力に対して決まった出力をしても中国語を理解しているとは言えないように、人工知能は本当の意味で言葉を理解することは出来ないんだそうです。どうなんでしょう。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    この世の一番の謎は、人の心だ。音楽や文学など人は人の心をどうにか表そうとしてきた。本作は物理学の知見から人の心を形にしている。繭子に対する自らの気持ちを形にしようとするアキの思いが切ない。文章が洗練されており、笹原先生の存在も生かされている。一見狭い人間関係を描いているように見えて、スケールが大きい作品だと思う。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    主人公は物理が大好きな女の子.彼女のクラスメートが実は存在しないのではないかという疑問から,物理学の方法論の話になる.物理理論の位置づけが正しく表現されたストーリーだという意味で「理系の文学賞」に相応しい.

  • 上田早夕里(作家)

    理学で人間の存在を読み解こうと試みた、論理性の美しさを評価しました。女性登場人物の書き分けや描写については、幅を広げてほしいので今後の課題として下さい。これからも、長く書き続けて下さることを望みます。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    宇宙を支配する物理学と人間の感情との間の解離について考えさせてくれる素晴らしい作品です。「存在とは何か」という答えのない問いに対して人間の感情の流れで迫る手法が美しいです。物理と世界の関係に深く分け入っており、大きく共感しました。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    観測された事実と存在について考えながら,自分の感覚でしか知覚できないこの世界を想う感じ,大きな共感を覚えた。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    とても雰囲気のある味わい深い作品だと思います。物理で定量できる世界からはみ出したような存在があるという美しい予感を繭子という少女の姿で描き出した点が魅力です。主人公はちょっとストーカーみたいですが。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

一般部門 優秀賞(東京エレクトロン賞)

「『ペンを取ってくれませんか?』」

松樹 凛

1990年生。埼玉県出身。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了。現在は民間企業に勤めながら、趣味で小説創作を続ける。「飛ぶ教室」第62号佳作入選。好きな作家はR・ブローティガン、アリス・マンロー、サマンタ・シュウェブリン、等。

< 作者コメント >
友人に勧められ、星先生の本を初めて読んだのが中学生の時。以降、せっせと作品を読み漁りましたが、思い出す話と言えば一つだけ。豪勢な列車で優雅に長距離通勤をするという話で、なんて素晴らしい未来だろうと感動した記憶があります。以上の思い出は今作と何も関係がないのですが、小説を書くときはいつも、そんな風にふと思い出される物語であってほしいと願っています。この度は栄えある賞を頂き、ありがとうございました。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    気持ちを言葉にすることは当たり前のようで、技術がいることだ。その事実を忘れて言葉を扱う事が増えたからこそ、言葉のニュアンスを心地よく翻訳する機器の発想は実に怖い。そしてこの機器を欲しいと思ってしまう自分がいる。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    言語の変換だけではなく,表現法まで適切なものに変換してくれる翻訳機.言葉の持つ力がどんどんエスカレートしていく様が描かれている.AIが人間をコントロールするという方向の小説だが,途中でオチが見えてしまったのは残念.

  • 上田早夕里(作家)

    書き慣れた印象がある著者ですが、細部の構成のゆるみが気になりました。しかし、長編を書く実力は既に身につけておられると感じたので、どこかの出版社から長編を出版できたら、ぜひ連絡を下さい。必ず拝読します。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    現在の機械学習と自動翻訳の、すぐ先の恐怖を見通す素晴らしい作品です。洗脳の倫理的な善悪の二極、そして開発者やクリエイターの気持ちの吐露に、多くの読者が引き込まれ唸らされるのではと思います。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    展開の速度感、既存作家の影響、ある種の時代性を感じる小説だった。キューブリックの2001年宇宙の旅を思わせるフレーズのタイトルがまた愛らしい。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    とてもうまく構成されたSF作品だと思います。人間関係を規定する言葉の持つ力を前面に出したのは荒唐無稽な感がありながらも、説得力を感じさせます。世界の変容を2人の女性の関係を軸に、世界で他に起きているだろう出来事を捨象して物語ったのは一つの手法として評価します。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

一般部門 優秀賞(アマダ賞)

「詠人不知 よみびとしらず」

明野 海

沖縄県出身。地元国立大学卒業後、地元に就職。故郷地元以外の世界を知らず、これからも知る予定もなさそうなので、それはつまらないと思い、想像だけで知らない世界を書き始める。

< 作者コメント >
自由な想像力は時空間を超越できると星新一から教わりました。その星新一の名を冠する賞に自分が選ばれるとは望外の喜びで、未だに信じられません。ですがこれに満足することなく、誰も見たことのない世界を描いていく決意を新たにしました。その機会を与えてくださった星新一賞の関係者の皆さまに深く感謝いたします。本当にありがとうございました。そして子供の頃の自分へ。もっとたくさんの本を読みましょう。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    自然保護と自然破壊を繰り返してきた人間への戒めのように感じる。タイトルのうまさと卓越した構成に驚かされた。最後まで緊張感をもって読ませる。この植物が本当に存在し、人間の奢りに対する自然からの復讐だとしたら恐ろしい。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    環境は複雑系である.一方向を目指した介入が思わぬ変化をもたらすことがある.安易な環境保護活動への警鐘とも受け取れる作品である.

  • 上田早夕里(作家)

    楽しく読みました。どの立場から読むかによって作品に対する解釈が変わる、一筋縄ではゆかない良さをそなえた作品です。自然と開発の関係を扱った連作として、さまざまな生物の話を、もっと読んでみたくなりました。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    科学者の科学活動と人工知能の関係については、将来の様子を想像するのが楽しいのですが、本作はミステリー風にそれを具体化しており読み応えがありました。科学者の研究への執着についての表現がより求められます。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    SDGsが声高に叫ばれる中でのショートショートという感じがした。これも星新一的な雰囲気を感じる一作だと思う。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    和歌を謎かけに使って全体をうまく構成した作品だと思います。とても気になるのは最後の部分で、傍点を作者がわざわざ振っているところ。ダーウィン進化論の視点からは間違った見解に読めるのですが、あえてダーウィニズムに挑戦しているのかなとも思います。その謎も評価の一部。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

一般部門 優秀賞(旭化成ホームズ賞)

「インテリ金次郎」

大木 裕史

東京都立国立高校から東京工業大学に進み、大学院応用物理学専攻を修了後、大手光学機器メーカーの技術開発部署にて38年間勤務。1990年工学博士。2012年常務取締役、2017年退任。2006年から10年間、東京大学特任教授(非常勤)を併任。とことん理系の人生を送りつつも、小説書きは小学生の頃から。その傍ら、自己流のピアノや作曲、イラスト描きなども楽しんでいる。目下最大の課題はあまりに下手なゴルフをどうやって上達させるかである。

< 作者コメント >
この度は身に余る素晴らしい賞をいただき、心から嬉しく思います。選考に関わられた多くの皆様、ほんとうにありがとうございました。長年技術者として生きてきましたが、技術開発とは夢を叶えること、そのための魔法を実現することだと思います。AIとその周辺技術の急速な発展が世界と日常を大きく変えつつある時代、そんな技術者の想いをちょっとノスタルジックに書きました。ご一読いただければ幸甚です。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    古風な味わいが逆に新鮮。ある意味直球な作品。人工知能を扱った作品は未来を意識させるものが多いが、むしろノスタルジーを感じさせる作風を貫いたところを著者の個性と捉えた。シリーズ化できそうな一作だ。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    主人公が昭和の頃に開発されたレトロなAIを手に入れる.AI研究の初期に開発された対話システムのオマージュになっていて,内容に立ち入った発言はしないのだが,その応答が絶妙な点が異なる.老子との会話を思い起こさせる.

  • 上田早夕里(作家)

    読者にすらすらと文章を読ませる力は、ずば抜けています。今後は、小説の構成や構造を工夫してみて下さい。情報を提示する順番を変えるだけで、物語の印象は、がらりと変わります。ぜひ、また新作を読ませて下さい。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    人生で大事なことはなんだろうか。情報過多で人工知能の隆盛の現在に、このような情緒ある作品が求められていると感じました。一読者として著者のメッセージをしっかりと受け止められました。情緒の具現化に感動を覚えます。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    文章を通じて漂う昭和感が逆に新鮮に感じられた。受賞作の中ではかなり星新一的かもしれない。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    人生で必要なことは全てこの本に詰まっている。そんな本の宣伝があったと思いますが、生きるためにはそんなに膨大な知識は要らない。気持ちを伝えるには公衆電話で十分、ということもあると思います。情報に押し潰されそうな現代人へのささやかな忠告でしょうか。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

一般部門 優秀賞(スリーボンド賞)

「時の器」

鵜川 龍史

1977年大阪府生まれ。慶応義塾大学文学部国文科卒業。ゲンロンSF創作講座2期受講生。第1回ブンゲイファイトクラブ本戦出場。「パペットと生ペット」で第7回日経「星新一賞」優秀賞を受賞。都内の私立中高一貫校(男子校)に勤務し、現代文を担当。学内誌の編集長も務める。小説執筆の傍ら、コントの自作自演や、小学校での落語実演のボランティア、音楽劇団への脚本の提供も行っている。Twitterアカウント:@ryujiu

< 作者コメント >
小説を書くのは、見知らぬ土地を旅するのに似ている。事前にどれだけたくさんの情報を集めていても、その土地の空気は実際に歩いてみるまで分からない。小説も、主人公と一緒に歩いてみるまで分からないことがたくさんある。だから、作者であるはずの僕自身も、彼ら/彼女らの決断に心を揺さぶられるし、世界に隠されていた秘密に驚かされる。願わくは、読者の皆さんにも、そんな興奮と感動が伝わりますように。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    人はみな同じ時の中にいて、同じ速度の中で成長し、老いていく。その時の流れを自由に変えられたなら……その科学技術がもたらすものは幸福なのだろうか、本作に漂う刹那は、生きとし生けるものはすべて時に縛られる宿命にあると教えてくれる。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    人間とそのアバターとしてのアンドロイドの交流という設定自体は,最近のSFでは珍しくない.ひねりどころは芸術の身体性と時間の話題か.少しだけイーガンの『順列都市』を想起させる.

  • 上田早夕里(作家)

    非常に美しいラストシーンを描いた作品だと感じました。舞台となる国や主人公の立場などを変えながらの連作も可能でしょうが、どんどん新しい題材に挑戦してほしい著者です。その実力を既にお持ちです。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    クリエイター読者の共感を呼ぶプロットにSFがうまくブレンドされたミステリーで、読みやすく感じ入りました。芸術活動というテーマが、科学者の活動と重なります。近未来を現状となめらかに接続している点が嬉しいです。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    身体性と知性の関係について考えさせられた。心情描写と風景描写が美しい。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    語り手が途中で交替することで筋が読み取りにく点が気になりますが、予想外の展開で軽い驚きを読者に与える作品ですね。アンドロイドと共生することが持つ、利便性を超えた意味を探る深い意図を秘めた点を評価します。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

一般部門 優秀賞(図書カード賞)

「犬。」

鈴木 夢翔

愛知県出身。大学卒業後、SEとして就職し実家を出る。いくつかの職を経験し、現在は小説の執筆に没頭している。

< 作者コメント >
受賞できて大変嬉しく思います。自分は夢を見ているのではないかと、信じられない気持ちでいっぱいです。母の本棚にあった星新一の本に熱中していた子供の頃を、懐かしく思い出しながら執筆しました。星新一と出会わせてくれた母、人工知能に関する本を読ませてくれたエンジニアの父、見守り励ましてくれた妹や友人に感謝します。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    人にとってペットはもう家族であり、パートナーでもある。中でも犬ほど献身的なパートナーはいないだろう。小説の特性を使って、伏線を散りばめた構成。最後まで読むともう一度読み返したくなる。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    古代より人のパートナーとなっている犬.人と犬が共にブレインウェアを用いて交流しているという設定.両者の関係が主と従ではなく,対等な「パートナー」として描かれている点が面白い.

  • 上田早夕里(作家)

    どうしてもこの物語を書きたかった、という、著者の熱気が伝わってくるところを評価しました。表現力を磨き続ければ、読者に作品の魅力をアピールする力は、もっと向上します。書き続けて下さい。期待しています。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    主人公の正体についての斬新なアイデアに驚かされ、楽しく読みました。シーン把握を混乱させる筆致は著者の意図なのかもしれないのですが、よりスムーズに読めれば感情移入への誘導になったと思います。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    著者の犬への愛が感じられてよかった。なぜこの題材にしたのか聞いてみたい。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    美しい未来像を提示した作品。悲しく愛おしい物語でもある。連れ立って歩くとき犬と人間はどうやって歩くのだろうか。情景を想像するのに困難さを感じたのは評者のイマジネーション不足か?

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

ジュニア部門 グランプリ(星新一賞)

「ケラの幸福論」

窪田 美空

2007年岐阜県生まれ。聖マリア女学院中学校1年生

< 作者コメント >
私は100年後の世界を“便利な世界”ではなくて”幸せな世界“にしたいと思いました。確かにケラは世界を幸せにするきっかけであったかもしれないけど、本当に世界を幸せにしたのはケラではなく、人間の考え方なのだと思います。書いている時に特に面白かったのは、今、世界で起こっている様々な問題について、家族と話し合ったことと年表作りです。何度も書き直してやっと完成した作品だったので、受賞できて本当に嬉しいです。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    ジュニア部門は総じて高評価だったが、中でも抜きんでて評価が高かった。アイデア、展開はともによく、物語として楽しめる。幸福とは人にとってよいものだが、その幸福がどこから来るものかを、おそらく幸福な人は考えない。鋭い作品だ。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    読んでいて心が暖かくなった作品.学校や社会で押さえつけられていることからの解放を願ってこういう作品になったのかと考えてしまう.総合グランプリ(というのは存在しないが)に推したいくらいだ.

  • 上田早夕里(作家)

    応募要綱にある「理系文学」という条件に真正面から挑み、社会や人間を観察しようと試みた姿勢を評価しました。科学の話だけでなく、梅干しだけの食卓に表現されたディストピア感が見事で、とても印象的でした。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    斬新でコンシステントなストーリーを最後まで読ませ、さらにどんでん返しも待っており、読んでいて爽快感がある作品です。作者のメッセージである最後のセリフまでのストーリーが、予想できない良い展開を持っており、大変楽しみました。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    小学生らしさと奇想天外さが同居していて面白い。荒唐無稽なものを愛するための好奇心は何歳になっても重要なものだと想う。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    こんな話が現実になればいいのにと思える、とってもいい話ですね。気候変動やエンケラドスのことなど科学的な素材が盛り込まれているところも評価しました。何よりケラに頼らなくても幸福になれるのだという発言が素晴らしかった。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

ジュニア部門 準グランプリ

「葬儀のスピーチ」

高橋 実鈴

2005年東京都生まれ。東京都在住。中学生。趣味は読書、映画鑑賞、バレエ、スノーボード。

< 作者コメント >
小さい頃から読んでいた星新一先生のお名前が付いた賞を頂くことができて、とても光栄です。作品を書き上げることは大変でしたが、100年後の未来を想像して、それを文字に起こすことは、とても新鮮な体験でした。審査員の皆様、私の作品を選んでいただき、ありがとうございます。今とてもうれしい気持ちです。この感情を大切にしたいです。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    スピーチの体裁を取った意欲的な一作。ある型で著わすことが必ず評価を受けるのではなく、その型にふさわしい中身でなければ、むしろ評価を下げる。テーマ、構成ともによくできている。感情を揺さぶられた。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    ストーリーの読み方が2通り(最後に描かれている感情が自然のものか否か)に分かれた作品.残念ながら私自身は評価の低い方の読み方しかできなかった.

  • 上田早夕里(作家)

    システムやテクノロジーに制御された人間の内面から、それに縛られない何かが表へ溢れ出てくる様子を表現した作品だと解釈しました。著者の今の年齢でしか書けない、一瞬のきらめきだと判断し、そこを評価しました。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    不覚にも、この作品を読んで目に涙が浮かんでしまいました。純粋に、傑作だと思います。我に返ると、作中の未来の状況は今の時代にそのまま当てはまりもすることに戦慄を覚えました。多くの人に読んでほしい作品です。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    実体験を元にしているのだろうか、字の文とフレーズの噛み合い方が素晴らしい。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    ひんやりしたガラス瓶の感触と少し甘い香り。詩情溢れる描写が素敵な作品ですね。人はありのままの感情を表出することをなぜやめてしまったのだろうか。感情が露出しすぎる今のネット社会の向こう側にある別の社会のありようを作者は示したかったのではと思いました。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

ジュニア部門 優秀賞

「新し物好き」

森田 晴月

大阪生まれ、大阪育ち。幼い頃から本や漫画が大好き。最近の趣味は飼い猫を可愛がること。

< 作者コメント >
自分でも上手く書けたと思う作品だったので、受賞出来てとても嬉しく思います。この作品は、キーボードを使わずに頭の中で思っていることをそのまま入力出来たら、もっと早く小説が書けるのではないか、という発想から生まれました。自分自身も書くことを楽しみながら、これからも読む人を楽しませることができる作品を作っていきたいです。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    新しい物にすぐ食いつく大衆と、考えるだけで無事が入力できる機械。このふたつが揃ったところで本作はある程度成功している。ラストの情景は頭の中ですでに映像化されている。印象的な場面をひとつ入れるだけで、作品の膨らみが増す。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    SFというよりファンタジー的作品.ただ,私も新しい物好きなので,オチ(なのかな?)の部分は当たり前にしか思えなかった.

  • 上田早夕里(作家)

    楽しい作品です。発端からオチまで、きれいに決まっています。それに加えて、クライマックスの場面がとても美しく鮮やかで、この描写力を評価しました。何ものにもしばられない自由な発想を、大変面白く読みました。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    斬新なテクノロジーから文化の美に人々が気づくという観点、本当にこの世で起こってほしいと願わせてくれる、美しいショートショートです。簡潔なストーリーでオチもあり、そしてメッセージ性にも富んでいる「星新一らしい」作品だと思います。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    ジュニア部門らしいのびのびとした文章を楽しまさせていただいた。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    様々な文字が空いっぱいに浮かぶ光景は想像していて楽しく美しい。ショートショートの軽い味わいでありながら、重たいテーマをうまくまとめましたね。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

ジュニア部門 優秀賞

「花を撃つ大砲」

山内 佑真

兵庫県西宮市出身
西宮市立樋ノ口小学校卒業
神戸大学附属中等教育学校在学中
物語を書くことに興味を持ち始めたのは小学校中学年のとき
学級通信への投稿と、作家・岡田淳さんの本との出会いから
令和元年「宇宙の日」記念 作文絵画コンテスト
作文の部 グランプリ(中学生部門)

< 作者コメント >
この度はこのような栄誉ある賞に選出して頂き、ありがとうございます。私は、一人でも多くの人に何か伝えられたらな、と思って書きました。物語の一番の良さは、「メッセージを物語に託せること」だと思います。この作品は、学校での平和学習で考えたことを軸に書きました。この物語を読んで下さった多くの人の心に、少しでも響くものがあればいいなと考えています。なにより、同じ授業を受けたクラスのみんなに届いてほしいです!

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    とても好きな一作。戦争を描くのは、それを知らない世代にはハードルが高いもの。「100年後の世界には戦争経験者がいない」それはある種の祈りでもある。そしてタイトル「花を撃つ大砲」の画を浮かべて、これを戦争を知らない世代の平和への思いと受け止めた。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    どうやったら戦争をなくせるかという問題にジュニアらしい明るい発想で挑んだ作品.ストーリー展開も素直に読めた.

  • 上田早夕里(作家)

    著者の年齢では手にあまるはずの問題である、戦争という題材に向き合った姿勢を評価しました。この作品を書いて終わりにするのでなく、学生になり、大人になっても、ずっと忘れずに、考え続けてもらいたいです。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    作品が未来からの手紙であるという形が興味深く、ストーリーとの親和性や読者への伝えやすさに感心しました。突拍子もない設定は、読者の共感を生むかどうか、分かれるところかもしれません。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    銃から花束をという発想はあったが、大砲というのはかなり面白い着眼点だと想う。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    戦争を知らない世代に戦争をどう伝えるのか。そんな重たいテーマを喋り言葉を駆使してうまく語った作品ですね。題名にもある「大砲」のイメージが鮮やかでした。聡さんから来た手紙を続編で紹介して欲しい。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

ジュニア部門 優秀賞

「M.O.S.」

加藤 健

2009年1月11日東京都に生まれる。立教小学校在学中。趣味は、読書、音楽鑑賞。とくにThe Beatlesが好き。

< 作者コメント >
この物語は、大豆からできているハンバーグを食べた時、本物の肉で出来たハンバーグと同じくらいの美味しさでびっくりしたことからできました。悩んだのは、機械の名前です。made of soyかmade from soyか悩みました。文法的には後者ですが、この物語の世界では、大豆から食べ物ができていることは当たり前だし、M.F.S.よりM.O.S.の方が愛嬌があると思ったので、M.O.S.にしました。この度は、この賞に選んでいただき光栄です。星新一賞を教えてくれた学校、書くことを勧めてくれた母、その他いろいろな方に感謝するとともに、自分の自信にも繋げていきたいです。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    感染症の危機の中にあって、100年後の世界にも未知のウイルスが突然あらわれることは想像範囲内だが、加えて人口増加による食糧危機が起きた世界を描いている。生きることはそれだけでサバイバルともいえるかもしれない。無駄のない文章で、最後まで読ませる。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    様々なものが機械化されて便利になる世界で,古き良き時代のものを発見した者が,その世界から排除される様と聖書の創世記を重ねた物語.

  • 上田早夕里(作家)

    主人公が普通の食べ物を知って感動する場面の描写が、とても生き生きとしており、好感を持ちました。この著者は、身近な体験談なども上手に書く能力を持っているに違いありません。これからもその力を磨いて下さい。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    ストーリーの完成度が高く、また最後のオチも楽しく読みました。100年後の未来という設定で、他の星での生活をいきなり登場させるのも小気味良いです。すっきりした良い作品です。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    ジュニア部門らしい伸びやかで飽きのこない展開だった。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    物語中盤に出てくる役所の偉い人たちの密談の場面がおかしくて笑ってしまいました。悪巧みなんだけど何か憎めないですね。地球規模、宇宙規模のスケールの大きな展開も魅力。想像力を目一杯広げた感じがいい。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

学生部門 グランプリ(星新一賞)

「二〇五〇年度 K大学 入学試験問題(オンライン型・文理融合学類)」

橋口 創一

九州大学工学部在学中。大学では放送サークルに所属し、ラジオドラマ等を制作しています。

< 作者コメント >
この度は、このような賞を頂きまして大変光栄です。昨今のコロナウイルスの影響で、大学の形は大きく変化しました。生徒はリモートで講義を受け、期末試験を受ける。これから30年後の大学生は、きっと講義、実験、研究、そして入学試験さえもオンラインでこなしているのかもしれません。そんな未来を創造しながら、入学試験風なものを書きました。審査頂いた方、また読んでくださった方に最上級の感謝を申し上げます。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    勝負に出た一作。架空の入試問題形式の作品は、そのアイデアと中身のバランスが問われるが非常によくできている。果敢な挑戦に拍手を送りたい。ロボットが社会的職種をこなす現代で、人間の役割とは? とあらためて考えた。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    入試問題の形で小説が示されているという少し凝った形式の作品.2050年でも,オンライン出題になっている以外は現在の問題とあまり変わらないところは少しマイナスだが,小説の方の設定はそれなりに面白い.

  • 上田早夕里(作家)

    入試問題形式の文書に「文理融合学類」と明記したところに、著者の発想の確かさを感じます。手記の部分も、ユーモアとやるせなさが同居し、実によく描けています。読者に対して、鋭く問いかける強さを評価しました。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    安楽死観をSFと融合した傑作です。安楽死の社会的な議論に人工知能がどう貢献しうるかをリアリティを持ってつづった日記風の小説が、個人的な観点を共感を持てるものに仕上げられています。加えて、入試問題という小説手法の可能性に驚きました。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    全体の中でギミックもストーリーもかなり面白かった。自分が大学教員で、こういうものによく触れているからかなぁ。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    仕掛けだらけの凝った設定がまず読む人を引き込みます。IRISが実現すれば確かに安楽死・尊厳死の議論に一石を投じるに違いない。SF的な切り口で作者はまさに一石を投じたいと考えたのであろう。その点では凝った構成がプラスに働くのか、疑問も残る。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

学生部門 準グランプリ

「執筆支援ソフト」

泉 空夜

愛知県立旭丘高校卒業 慶應義塾大学理工学部在学中

< 作者コメント >
このたびは素晴らしい賞をいただき、嬉しく思います。と、パソコンで書いています。”uresiku”と打鍵し、スペースキーを押したところ、自動的に『嬉しく』と変換されました。執筆において人と機械との協調は既に一般的です。それがこの先どうなっていくのだろうか……そんなお話です。楽しく読んでいただければ幸いです。また、原稿に目を通してくださったサークルの先輩方にこの場を借りてお礼申し上げます。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    自分の妄想を小説内で実現する……おそらくすべての小説はそれが原点である。そういう意味で本作は物書きの究極の欲望を、コメディとして読ませてくれる。つじつまがあわない小説を書いてしまうのは、作家特有の悪夢。悪夢は他人から見ると面白い。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    小説の中の設定やストーリーの一貫性を維持してくれる執筆支援ソフトの話.現実世界と小説の世界が交錯して意外な結末に至るというストーリーは読み応えがある.

  • 上田早夕里(作家)

    人間の弱さや愚かな部分がテクノロジーによって暴かれる話で、笑いを誘いながら軽快に展開し、最後にきれいに落とすところに面白みを感じました。物語の雛形は、別のもので見せてほしかったと感じました。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    小説執筆支援ソフトが台頭する未来、主人公の斬新な設定と、小説と現実の境目をギリギリまで描くストーリー、そしてミステリーに、感動しました。ソフトの詳述に加え、人工知能と創作支援が行き着く危険な可能性の暗示が素晴らしいです。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    自分のラボでも執筆支援の研究をしているから、小説の執筆支援の研究をやっている学生のことを思い浮かべながら読んだ。誰が書いたかはわからないけれど、こういう思考は題材によって似てくるのかと思った。面白い。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    ノリノリで書いている感じがします。こんなソフトはもう何処かにあるのではと思えますし、発売されれば必ずこうした使い方がされるのでしょう。ちょっと怖い結末も含めて、物語への妄想がもたらす仮想世界と現実の境界の危うさを感じさせました。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

学生部門 優秀賞

「彩話師」

中川 朝子

2000年、大阪府生まれ。愛知県立旭丘高等学校卒業、名古屋市立大学医学部在学中。小学校1年生の時に見たBBC制作ドラマ「ドクター・フー」に感銘を受け、SFに興味をもつ。星新一、劉慈欣、テッド・チャンを愛読。

< 作者コメント >
海外ファンタジーを読み漁っていた私に「ショートショート」というジャンルを教えてくれたのは、他ならぬ星新一先生でした。彼が私のここ十年間のシンボルです。小説の舵取りは難しく、想定通り進まない日の方が多いけれど、奇抜なアイデアを思いついたときの喜びは格別です。誰かの胸に深く刺さるフィクションを目指して、これからも創作活動に励んでまいります。素晴らしい賞をありがとうございました。

審査員コメント

  • 中江有里(女優・作家)

    理系作品の核に文学を持ってきた意外性。彩話師というタイトルも興味を引く。1000年も前の「源氏物語」がいまだ研究され、読み継がれる国で文学否定論がいつか盛り上がる日が来ないよう、本作をディストピア小説として楽しみたい。

  • 中島秀之(札幌市立大学 学長)

    現代の「言葉狩り」風潮を徹底的に批判した作品.そこに喝采したい.ただ,この手のテーマは様々な既存のSFでも使われているので目新しくはない.

  • 上田早夕里(作家)

    古今東西において、この作品が示した規制に類するものは既に行われており、これからもさらに厳しい形で社会に現れてくるに違いありません。それを、現場で働く人間の内面にまで立ち入って描いたところを評価します。

  • 橋本幸士(理論物理学者 大阪大学教授)

    未来の職業「彩話師」のアイデアの斬新さに脱帽しました。彩話師の作業手法をより知りたくなります。また設定が戦時下を思い起こさせ、それが全く触れられずとも文化統制への危機感を知らずと感じさせる作品でもあることに心を打たれました。

  • 落合陽一(メディアアーティスト、筑波大学准教授)

    Clubhouseで話していると、こういう職業の人がかなり求められている世界になっているのだなと実感する。

  • 滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

    彩話という美しい響きの言葉は検閲という固い言葉より怖いのだろう。世の中の風潮が言葉や物語を狩ってしまう。主人公が見つけたのはほんな一筋の希望ではなかったのか。それにしても末尾の彼女の足取りは軽いように思える。

作品はhontoで無料配布しています

※ 利用開始登録(無料)が必要です。

第8回 日経「星新一賞」総評

まずコロナウイルス禍の中で多くの作品を応募して下さった皆さんに感謝したいと思う。皆さんの熱意に敬意を表したい。
第八回の日経星新一賞の最終審査はリモートによる審査会となった。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下という状況の中で六人の審査委員の皆さんが一つの部屋で八時間に及ぶ長時間、論議をするということは不可能だということから、残念ながら、例年通りの形を取ることができないという結論に至った。
リモートによる皆さんの負荷を考えると、審査の時間も大幅に短縮せざるを得なくなった。
星新一賞の最終審査の特徴は異なった専門分野の皆さんがそれぞれの知見を軸に語り合うことで、いわゆる文学賞とは異なる新たな結果を導きだすところにある。過去の七回の審査の結果はそうした特徴を反映したものになった。けれどもそのためには論議に多くの時間を必要とするわけだが、今回は、その余裕がない。司会進行をつとめるわたしとしては頭を抱える事態である。審査の冒頭で審査委員の皆さんに論議を尽くしてもらうと共に時間的な制約があるという矛盾したお願いをせざるを得なかった。大変申し訳なく思う。
けれども結果としては審査委員の皆さんが実に効率よく論議を進めて下さった。語りきれなかったこともあったように思うが、素晴らしい結果を出して下さったと思う。
毎回、高い評価を得ているジュニア部門だが、今回も同様の結果になった。ただ、ジュニアらしい思いつきや視点が欠けているのではないかという指摘もあった。また上位の作品とそれ以外の作品との間には大きな差があるという指摘もあった。まとまりが良い作品が多くなったのは、素晴らしいことだが、そのためにおおらかさが失われることにもなったのではないか。ジュニアの良さであるのびのびとしたアイディアや視点の面白さを大事にしてもらいたい。
学生部門は例年よりも充実していたように思う。それでもやはり上位の作品とそれ以外の作品の間には大きな差があった。上位の作品は過去の作品と同等かより優れたものがあったように思う。学生部門には若い世代の考えを反映して欲しいという期待がある。それが感じられない作品が多かったということかもしれない。審査委員から科学的ということに対する誤解があるのではないかという指摘があった。科学と言うと難しそうであったり、科学用語を多用する傾向があるが、科学というものの楽しさや素晴らしさを考えるべきではないかということだ。論文ではなく小説ということを考えれば科学的ということの意味も変わってくるのではないか。表面的な形ではなく、その背後の考え方が重要だということだ。またこのような趣旨の発言は科学者の側の審査委員から出たのだが、それが意味することを十分に考えていただきたい。
一般部門は時間の制約の影響が最も出る部門となるのではないかという危惧があった。入賞の数が多いということがその理由だ。入賞作一つ一つに時間をかけて論議が繰り返されるという過程を経ざるを得ないからだ。
グランプリはかなり早い時点で決定したが、入賞作品については該当作無しという選択もあるのではないか、という質問が出た。実を言えば過去の審査会でも同様の意見があった。賞の価値を高めるために、該当作無しとする方法が取られることが多いわけだが、それはこの日経星新一賞にはふさわしくない方法だと考えている。入賞作が多いことの理由は、そうすることによって応募して下さった皆さんの作品を顕彰する機会が増えることであり、それによって皆さんをサポートすることにつながるからだ。この賞は科学に対する認識を深めてもらい、関心を深めてもらうという趣旨ではじめたものだ。できる限りポジティブな部分を保っていくべきだと考えている。
該当作無しという意見があった場合、上記のような説明で、納得いただいている。今回も同様の説明で了承していただいた。
賞の価値は皆さんの作品そのものにある。今回、幾つかの作品が後一歩ということで入賞を逸したケースがあった。それらの作品に共通するのは、あり得ない描写や言葉が使われていることだった。具体的な例は挙げないが、せっかくのアイディアがそれによって評価できないものになってしまうことになる。この賞は他の文学賞よりもアイディアや考え方を評価することに特徴がある。それでも、ことに一般部門は、小説としてのレベルが要求されるのは当然のことだ。応募前に何度か読み直すことで、ある程度は避けることができる問題だと思う。
今回はリモートという環境の中で審査を行ったわけだが、結果を見ていただければ明らかだが、素晴らしいものになった。それはもちろん応募して下さった皆さんの力を反映したものだが、それと共にこの環境の中で様々な知見を示して下さった審査委員の皆さんの力量によるところが大きい。重ねて感謝しておきたい。この新型コロナウイルス禍の中で中止すべきかどうかの議論もあったが、どのようにすれば審査の実施が可能か、それを考えた結果のリモートによる審査会となったわけだが、実施して良かったと思う。
来年は例年通りの形でやれることを心から望んでいる。審査の過程で様々な発見や新たな視点が提供されることがこの審査会の素晴らしいところであり、それは実際に顔を会わせて論議することから生まれやすくなると思うからだ。審査委員の方々が互いの専門領域に関する質問が出たり、論議が別の方向に動いて行ったりするわけだが、そのことが審査に新たな局面を生み出すことにもなる。時間の制約のために今回はそうした話が少なくなった。
応募する皆さんも、大変な状況にあると思うが、多くの作品を寄せていただきたい。次回はぜひ表彰式でお会いできることを!

日経「星新一賞」最終審査会
 司会進行 鏡 明

PAGE TOP