理系的発想からはじまる文学賞 第10回 日経「星新一賞」

受賞作品詳細

一般部門 グランプリ(星新一賞)

「楕円軌道の精霊たち」

関元 聡

千葉県出身、茨城県在住。東京農業大学農学部林学科卒。同大学院農学研究科修了(造園樹木学専攻)。都内のコンサルタント企業に勤務。技術士(建設部門)。2021年よりSF作家の菅浩江氏が主催する小説創作講座を受講。

< 作者コメント >

昨年に続きこのような素晴らしい賞を頂きまして、真にありがとうございます。この作品は元々、「島」をテーマにしたアンソロジーへの寄稿用に書きかけて文字数の都合で断念したもので、とても気に入っていた作品なので、こうして受賞作として日の目を見ることができたことを大変嬉しく思います。またこの一年、SF作家の菅浩江先生には創作の秘訣や心得について様々なご指導を頂きました。この場をお借りして感謝の意を表します。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

気候変動の影響で消えゆく美しいサンゴ礁の島、宇宙エレベーターがつなぐ地球と深宇宙、そしてばらばらになったかつての住民たちの運命。最新テクノロジーと精霊たちへの祈りが見事に融合した名作です。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

プアプア島の仮想永続性が美しい文章で語られている。
無限遠点に飛び去る放物線軌道や双曲線軌道ではなく、
新プアプア島が地球の近くを周り続ける楕円軌道のリミットサイクルに乗ってくれて、
うれしい。

池澤春菜(声優、文筆家)

圧倒的筆力。イメージの豊かさ、牧歌的な雰囲気と、底を流れる美しくも重い死の気配、そして全てがカタルシスとなって昇華していくラスト。SFにしか書けないこと、SFだから書けることを突き詰めた作品。

美村里江(俳優、エッセイスト)

美しい小さな島の自然と、宇宙エレベーターの壮麗さの対比が印象的。沈みゆく孤島、失われる故郷と文化、再現された記憶…。消えていくものを繋ぎ止めようとする人の心が切ないのですが、ラストでは不滅となることへの相反した寂しさも沁みました。

白井弓子(漫画家)

儀式上だけだったはずの魔女がバーチャルに再現される時、それは可能になる。1本筋が通った迫力ある神話SFでした。自分は結末に神話をなぞる事の空しさが胸に刺さり辛かったですが、それも作品が「強い」という事なのかもしれません。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

呪術性の高いファッカラの祭りとそびえ立つ科学技術の象徴である宇宙エレベーターとの対照が鮮やかなイメージを与える。人類文明の発展からこぼれ落ち犠牲となるものたちへの哀惜と(おそらく犠牲を強いた文明への復讐心も)が楕円軌道への永遠の旅立ちの原動力なのだろう。

作品は、honto で無料配布しています。

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一般部門 優秀賞(東京エレクトロン賞)

「エターナル・エンプレス」

井本 尚登

愛知県知多半島出身、愛知県知多半島在住。名城大学法学部法学科卒。営業職で名古屋市内の会社を転々とした後、20年程前自宅にて映像制作会社「有限会社 井本電視工房」を設立し映像ディレクターに転身。現在、地元の食品販促用映像をメインに細々と営業中。

< 作者コメント >

中学・高校とSF御三家の作品には随分助けられ、特に筒井康隆先生には多大な影響を受け生きてきました。数年前世田谷の日本SF展で土産に買ったホシヅルマグカップを妻にうっかり割られ、じゃあ入賞して取り返してよと逆ギレされて知った星新一賞。おかげで大学以来40年ぶりに小説を書く羽目に・・・
今回この非科学的で未熟な法螺話を評価下さった関係者の皆様に深く感謝します。評が楽しみです。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

緊迫感をはらむオープニングから、人類、いや地球を救うEE(エターナル・エンプレス)が昇華していくエンディングまで一期に読みました。僕と彼女のふとしたやりとりがこの世界の結末に繋がる「セカイ系&理系ショートショート」ですね。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

エターナル・エンプレスの妖しく不思議な魅力が印象的。
EEウィルスが世界に拡散した後、人類とどのような共存関係を築けるのか?
そこのシナリオにとても興味をそそられる。

池澤春菜(声優、文筆家)

書きたいテーマをキャラクターと物語で引っ張り、最後まで読ませてくれる。植物との共生がテーマのお話は他にもいくつかあったけれど一番スケールが大きく、風呂敷の広げ方も爽快。長編にもできそう。

美村里江(俳優、エッセイスト)

EEが魅力的ですね!彼女の放つ圧倒的エネルギーにほだされる主人公に同調。浮島のアイデアを中心とした文章全体の高揚感に乗って、希望に満ちた終幕まで一気読みでした。設定を活かしたサイエンスホラーも読んでみたくなりました。

白井弓子(漫画家)

日本の領海に突如出現した巨大な浮島。その発想はビジュアル的にもダイナミックで非常にわくわくしました。ただそこにたどりつくまでのストーリーが「ディスカッション」だった事は個人的には少し残念に思います。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

太平洋上に集まった各国の艦艇を見下ろす冒頭の描写から引き込まれて読んだ。巨大な浮島はこれぞSF、思考実験のたまもの。説明抜きで不可解ながら破天荒で魅力的なEEの存在が光る。意味深なラストもいい。

作品は、honto で無料配布しています。

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一般部門 優秀賞(アマダ賞)

「五億年越しのパートナーシップ」

亀山 建太郎

奈良県出身、福井県在住。京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科情報・生産システム科学専攻修了。博士(工学)。東京の方に働きに出たと思ったら関西に追い帰されたり学生に出戻ったりした後、高専に拾われ現職(ロボットをつくる人をつくる人)。「フィールドロボット(主に農業)の問題を、信号処理や制御技術でカッコよく解決したい」、「ロボットを操ってなにやら良き事を成す技術者を育てたい」という思いで日々活動しています。

< 作者コメント >

この度は身に余る素晴らしい賞を有難うございます。本作品は、学生らと農業ロボットを作る中で改めて認識した事、「土って当たり前にあるけど、全然当たり前じゃない」とか「植物ってモノっぽく扱われがちだけど、モノじゃない生命じゃん」などを寄せ集めたものです。学生にこういう話をすると、「研究で忙しいんであっち行って下さい」的な扱いを受けるので、このような形で皆様のお目にかける機会をいただき、とても嬉しいです。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

「心」を持った植物(かつAI)のアイさんと、そのお世話係カヅキとの交流の物語。高慢な人間はすぐ忘れてしまうけれど、この惑星はそもそも植物がずっと支配しているのだ。日光を浴びるだけでエネルギー・食糧問題を解決できるアイさんはすばらしい。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

心を持つ農産物という発想に、新規性を感じた。
なぜヒトが心を持つのかという謎が解けていない以上、
植物や人工知能に心が創発しても不思議ではない。
そして、心の創発には確かに外界とのインターフェースが鍵になると思う。

池澤春菜(声優、文筆家)

テーマを語ることに手一杯にならず、あくまで物語をちゃんと進めているのが好印象。軽い読み心地と最後に残る一抹の怖さが、とても良いコントラスト。っていうか、何よりアイさんが可愛いよね。

美村里江(俳優、エッセイスト)

読者を楽しませよう、という心意気を感じました。特に、軽妙でありつつふと考えさせられる会話部分が良かったです。アイさんの存在定義が幅広いのが面白く、現実は人間の想像を軽々超えると感じさせられます。力まない主人公も好対照。

白井弓子(漫画家)

植物がお互いにコミュニケーションしているという知見や、未来の農業、AI…色々なアイデアがてんこ盛りで興味深かったです。一つ一つをもっと知りたくなりました。AIとのひょうひょうとした会話やエピソードが楽しく飽きさせないのもとても良かったです。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

第一印象は「壮大なスケールのほら話」。ほうれんそうのエピソードといい、今回の受賞作のなかでは数少ないコメディタッチの会話から独立栄養と従属栄養にかかわる大きな物語がつむぎだされる。

作品は、honto で無料配布しています。

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一般部門 優秀賞(旭化成ホームズ賞)

「春発つ日」

青庭 遠

東京都出身。民間団体に勤務。

< 作者コメント >

中学生の時に初めてSFに触れ、たちまち心を奪われました。今ではない未来や過去、ここではない宇宙や並行世界、現実の軛を離れた物語とそれを紡ぐ想像/創造の力に圧倒されました。当時、夢中になって読み漁った星新一先生のお名前を冠した賞でこのような評価をいただけるのは望外の喜びです。ご関係の皆様、そしてこの作品を読んでくださったすべての方々に感謝申し上げます。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

火星移住時代のSFだが、ベースになっているのは離婚社会での母親と息子の別離の寂しさ。メタバース、遺伝子操作などの技術も登場するが、あくまで親子の心の揺らぎを見せる小道具になっているのがにくいです。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

母と息子の強く静かな情愛が、サーカス見物を舞台に美しく記述されている。
心の隙間をめがけて飛ぶ光る植物、面白い。
心の隙間は居心地がいいのだろうか?

池澤春菜(声優、文筆家)

素晴らしく美しい。でもこれはSFでなくても成立する。書きたいテーマのためにSFを便利な道具として使っているようにも思えた。人間のいない火星で、なんのためにこの植物は心を読む進化を遂げたんでしょうね……。

美村里江(俳優、エッセイスト)

楽しく華やかなサーカスの演目、それを鑑賞しながら互いを感じ合う母子の距離のもどかしさ、とても効果的に反響し合っていました。小物を使った心理描写も素晴らしい。その分、サイエンス部分の融合がもう一層深い展開も読みたかったです。

白井弓子(漫画家)

XRサーカスの見事な描写と共に別れ行く母子の心の動きが具に感じられ、心にしみました。後味も良かった。ただこのお話の肝になるものが「転」になって急に登場し、SFとしては前後のつながりが弱いのが惜しい気がします。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

絢爛たるイメージのサーカスの描写に翻弄され、後半は心温まる母と息子のいたわり合いが胸を打つ。よく考え抜かれた作品ではあるが、気になったのは動物に芸をさせるサーカスの出し物が未来にも存続しうるかという点だ。

作品は、honto で無料配布しています。

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一般部門 優秀賞(図書カード賞)

「おじいちゃんの樹」

木口まこと

弘前市出身。東北大学大学院理学研究科物理学専攻修了(理学博士)。大阪大学理学部助手、マックス・プランク研究員などを経て、現在は大阪大学サイバーメディアセンター教授。専門は統計物理学・生物物理学・計算物理学。著書に『科学と神秘のあいだ』『いちから聞きたい放射線のほんとう』(共著)、訳書に『ニックとグリマング』『メアリと巨人』(いずれもP.K.ディック著、後者は共訳)など。

< 作者コメント >

素晴らしい賞をいただけてとても光栄です。ありがとうございます。長くSFファンを続けてきましたが、「理系文学」という言葉を見て、はたと考えてしまいました。SFではなくあえて理系文学と呼ぶからにはSFとは別の何かが必要なのでしょう。理系文学とはなんだろうと考え、この作品で自分なりの回答を出してみました。そして同時にこれはとても個人的な物語でもあります。多くのかたがたに届くことを願っています。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

地球生命の起源は宇宙から来たという「パンスペルミア」理論をベースに、「おじいちゃんの林檎」という牧歌的なシーンから地球植物と共生する宇宙生命体のストーリーへと見事に発展させました。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

一本の林檎の樹と共生したオウ。
その意識の移り変わりが、異なるストレンジ・アトラクタ間の遷移ダイナミクスで
魅惑的に表現されている。
この非線形ダイナミクスの微分方程式を書いてみたくなる。

池澤春菜(声優、文筆家)

菌根菌という大きなガジェットを使いながら、この木だけで話が閉じてしまっているのがもったいない。スマホを持っているのにネットに繋がない、みたいな。もう一回り大きな、そして読み応えのある話にできたはず。

美村里江(俳優、エッセイスト)

未知との遭遇パターンとしてあり得るのではないか、と思える展開。方言もいいエッセンスとなり、林檎好きとして果樹園の風景や育て方も興味深く楽しみました。最後の樹の発射場面のみ、もう一つ何か工夫欲しかった気がします。

白井弓子(漫画家)

菌根菌との共生を利用した農法と宇宙生物を組み合わせる発想が良かったです。共生を納得させられる描写が細かく、引き込まれました。最後が少しあれっという感じでしたが、それはそれで全体のほのぼのとした空気に合っていて私は楽しめました。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

なにげない日常、日本の一地方都市で育った女性の成長。ストーリーの進展に引き込まれるうちに日常にすぐそばにあり続けた非日常を知ることになる語り口には脱帽する。ただラストシーンは不要ではなかったろうか。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 グランプリ(星新一賞)

「電動と手動」

本宮 笙太

2010年5月14日 埼玉県川越市生まれ。
川越市立中央小学校6年生。趣味は読書とゲーム。得意科目は英語。

< 作者コメント >

今回、僕にとって初めての文学賞への応募でした。正直、このようなことになるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです。大好きな星新一さんの名前がついた賞なので、光栄に思います。この作品のアイデアはスラスラ出てきましたが、星新一さんの作品のように、最後の一文でびっくりするようなオチに持っていくように工夫して作りました。
僕は将来作家になるのが夢なので、はじめの一歩を踏み出せてとてもワクワクしています。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

オール電化、オール自動化の便利な世の中になった未来。でも突然の停電で全ての電化製品がストップしたときに彼女が向かったのは。。 見事な起承転結と、あっと言わせるエンディング、これこそ星新一ワールドだ!

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

短く上手く構成された素晴らしい作品。
確かに手動エネルギーだけで暮らせれば、
カーボンニュートラルも実現出来ますね!
手動でもこのようなレベルの生活を実現できる、
省エネ技術が開発されることを祈ります。

池澤春菜(声優、文筆家)

日常の描写の積み重ねから、最後に非日常にきゅいっと持って行くのがいいですね。この長さがぴったり、過不足ない。この、足りなくない、でも書きすぎない、というのは実はとてもとても難しい。読後感も最高。

美村里江(俳優、エッセイスト)

1本!というオチが決まった気持ちよさがあり、その下地として近未来的な朝の描写も丁寧で、リアリティを感じさせることも効いていました。全ての狙いがピタッとはまって、ラストの威力を最大限に強めていると感じます。お見事でした!

白井弓子(漫画家)

よく出来たコントのような。本気で笑ってしまいました。こういう未来の自動生活はよく描かれるけど…どこからかわいてくるエネルギーなんて、無いんですよね。短いけどパンチがありました。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

愉快!の一言に尽きる。読めばわかる、説明不要の面白さ。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 準グランプリ

「future candy communication」

中川 泰明

聖光学院中学校在学中。好きなことは、読書と数学。

< 作者コメント >

この度は誠にありがとうございます。心より御礼申し上げます。
テーマである百年という時間は遠くありましたが、曾祖母が百歳を迎えたことで少し身近に感じるようになりました。
人の技術力により、どんなに情報伝達の手段が進歩したとしても、互いに分かり合おうとする心の美しい有り様がなければ、その真価を発揮することはできないのではないでしょうか。
生きとし生ける者が持つ心の、宝石のような美しさを僕は強く信じています。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

言葉にできない感情を飴にしてくれる機械、その飴を食べた人はその感情をしゃべってしまう。果たして、生き物地球の感情とは。。。 ジュニア部門とは思えない緻密な展開と示唆に満ちたエンディング。長編作品のような味わいです。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

面白いアイデアで、ストーリーも奇想天外。
ヒトでも必ずしも言語化しきれない感情はたぶん多いし、
長い言葉よりも一瞬の微笑みの方が想いをうまく伝えることもあると思います。
それらをどう伝えるか、ぜひ考えてみて下さい。

池澤春菜(声優、文筆家)

とても丁寧に書かれているし、物語が一つずつ階段を上って大きくなっていく構成も見事。そしてポチの可愛さよ。最後、審査員によって読み解き方に差が出てしまったのが惜しかったなぁ。

美村里江(俳優、エッセイスト)

博士による孫へのデモンストレーションから国家間、ペット、野生動物、と飴が必要とされる場面を広げていき、「地球」を主語にする大技に大成功。ワクワクさせる展開が素晴らしい。終わり方は審査会でも意見が分れ、そこも楽しかったです。

白井弓子(漫画家)

飴が「本心から出た言葉の証人」になるというアイデアがどんどんエスカレートしていき、次第にスケールの大きい話に。楽しめました。最後の一言は「誰が」発したのでしょう。気になります。地球の命運がかかってますから。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

博士がSというたんぱくとHというアミノ酸を合成したという、実にいいかげんな設定のあめ玉が主人公。「いいね」的な身近な効用から話は次々と大きくなり地球規模に成長する。その語り口はショートショートの王道だ。結末は2通りに読めるが、どちらか一方にした方がよかったかも。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 優秀賞

「ゆきとどいた人生」

小林 航介

2007年東京都生まれ。2014年4月〜2020年5月までフィリピンのInternational School Manilaに通う。2022年4月より茗溪学園中学校に在籍。バレーボール部所属。趣味は読書、夢想、ゲーム、バレーボール。VTuberが好き。

< 作者コメント >

この物語は、以前から考えていたことをベースにして創りました。「未知」と「知」、どちらが私達にとっては幸せなことなのか、そこに焦点を当ててみました。タイトルは初め、違ったものを考えていましたが、星新一先生のファンなので、「ゆきとどいた生活」から「ゆきとどいた」をお借りしました。改めて、今回、私の作品を選んでいただき、ありがとうございます。大変光栄に思います。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

人口冬眠から目覚めたわがままな王様、便利で何一つ不自由ない未来を楽しんでいたが、そんな時代の究極の刺激とは。。。 生きる意味とは、死ぬということとは、ゆきとどいた社会の果てにいきつく人々の願いとは、を考えさせられました。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

とても面白い発想です。
人々は昔から人生の有限性に悩みながら生きてきました。
有限だとはわかっていても有界だとは思いたくないのです。
でもこのことを意識することで、
天国でなくても日々の命が輝くことがあるような気がします。
ふと江戸時代の正受老人の「一日暮らし」を思い出しました。

池澤春菜(声優、文筆家)

寓話的な物語は、少し距離感が出るので書きやすいと思います。ただその分、その距離の中に踏み込んでしまうと冗長さが出てくる。書きたいこと全部、ではなく、あえて書かないことでよりテーマが伝わることもあるよ。

美村里江(俳優、エッセイスト)

人格に難ありの主人公が思い上がり、痛い目に遭う…もとい、痛いとも思えなくなってしまう教訓話的構造。古典の爽快感があって良かったです。まとめて一段でストンと終わりにすると、皮肉がさらに刺さったかもしれません。

白井弓子(漫画家)

生に固執する瀕死の暴君をこれ幸いと冷凍したままのらりくらりと起こそうとしない前半から思わずにやりとする結末までよくまとまっていました。しっかりと風刺が効いていて好きな作品です。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

「死」についての倒錯した世界を描く。豊かさが行き詰まった先を描く試みは星新一さんの作品に近い味わいだ。なぜそうなった?と途中経過を描き出すのは書く者の楽しみだが、ちょっと長すぎた感はある。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 優秀賞

「エピローグ」

宮下 ぴかり

2019年 角川つばさ文庫小説賞(第8回)こども部門 グランプリ「真の王」
2020年角川つばさ文庫小説賞(第9回)こども部門 準グランプリ「リスタート」
2021年角川つばさ文庫小説賞(第10回)こども部門 グランプリ「完璧な一日」

< 作者コメント >

この度は素晴らしい賞をいただきありがとうございます。
頭の中の想像の世界は自由で無限で、私をわくわくとさせてくれます。三年におよぶコロナ禍は現実世界を制限し、私に日常を狭く窮屈に感じさせました。ですから想像の世界に浸る時間が増えた気がしますが、小説を書いていると不自由な現実を忘れさせることができ、楽しく魅力的な世界へ旅している気分になります。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

死期を迎えた老夫婦の物語ですが、そこに単なる機械であるはずのアンドロイドの献身的な姿が絡んできて、とても美しいラブ・ストーリーになっています。エンディングはハッピーエンドにしてあげたかったなあ。。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

トキオとユウコのおだやかで深い愛が、
病室という本来暗い場の中で美しく記述されていて、
素晴らしい作品だと感じました。
パートナーと記憶を共有することの重要性をあらためて認識することが出来ました。
たとえ相手がロボットであっても。

池澤春菜(声優、文筆家)

細かいところを丁寧に大事に書いているので、この世界のことをしっかり考えてから書き始めたんだな、と思いました。ただ一文が長すぎて、途中で言いたいことが行方不明に。点や丸は呼吸と同じ、息継ぎ大事。

美村里江(俳優、エッセイスト)

隅々まで丁寧に書かれていて、暮泥む静かな病室に一緒に居る心地になりました。物語の舞台をしっかり作り、二人の大事な時間をひしひしと感じさせます。この筆力で、さらに斬新な設定のお話も是非読んでみたいです。

白井弓子(漫画家)

とてもよく書けていて、文章力はすばらしいと思います。ただ主人公によりそうアンドロイドのキャラクターに何か意外性があれば、より新鮮なものになったでしょう。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

ロボット共に生きる世界では避けられない別れは比較的よく取り上げられるテーマで、決して目新しくない。しかし著者は陰りゆく病室の中で最後の時を迎えた2人の会話と情景を丹念に描き出し、美しく悲しい世界を創造した。泣けると思ったのは私だけだろうか。

作品は、honto で無料配布しています。

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ジュニア部門 優秀賞

「小腹ガム」

山﨑 真晴

2008年福岡県生まれ。3~8歳までの幼少期をタイのバンコクで過ごす。今は東京在中の中学2年生。応援部(チア)とかるた同好会に所属中。

< 作者コメント >

授業で取り組んだショートショートに興味を持ち、書いてみたいと思い応募しました。創作は難しかったですが、日ごろから「おもしろアンテナ」を張っていたおかげで自然とアイデアが湧き、楽しく書けました! 今回の物語も、下校時に空腹の状態で通る商店街からヒントを得ました。憧れの方々に審査してもらえただけでも光栄なのに、記念すべき10回目にこの賞に選んでいただいたこと感謝いたします。

審査員コメント

野口聡一(東京大学特任教授、宇宙飛行士)

「においを吸収させるガム」というアイデアだけでショートショートに仕上げたのはお見事。オープニングからエンディングまで一貫して母と子の小気味よいやり取りが続くのも微笑ましい。

合原一幸(東京大学特別教授、名誉教授)

食べ物のおいしさには、味覚と嗅覚の両方が重要なので、
確かににおいはうまく活用出来そうです。
好きな料理の小腹ガムは減量したい方にはうってつけかと思いましたが、
粘土ガムの方がかえってよさそうですね。

池澤春菜(声優、文筆家)

大好き。とっても自分のお腹に正直。一言も喋らないけれど、お母さんが良い味出してて、存在感抜群。このガムがあったらどんなことができるかなぁ、って読み終わった後にいろいろ考えちゃう。

美村里江(俳優、エッセイスト)

"味のある文章"とはこういうことをいうのでしょう。狙って出せるものではない、作者さんのカラーが魅力的です。母親とのやりとりも率直で笑えます。役者も時々減量が必要な時があるので、小腹ガム欲しくなりました。

白井弓子(漫画家)

ガムの開発がスポーツ用品メーカーだというようなディテールが良かったです。お母さんの適当な態度もおかしくて、リアル。あまりにアイデアが秀逸だったので、もっと読みたいと思ったところで終わってしまったのだけが残念でした。

滝 順一(日本経済新聞社 編集委員)

星新一のショートショートの世界、あるいはドラえもんの世界に通ずる見事な小話。こんな発明があったら理屈抜きで面白い。標準語で書かれているのに、なぜか大阪弁の会話に聞こえてしまうのは私だけだろうか。母の存在が光る。

作品は、honto で無料配布しています。

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第10回 日経「星新一賞」総評

日経星新一賞は今回で十年目になる。作品を応募して下さった皆さん、審査員の皆さん、そしてサポートして下さった企業の皆さんのおかげでここまでこれたと思う。心から感謝したい。
今回から、学生部門が一般部門に統合されることになった。学生部門に期待していたわたしとしては残念ではあるが、学生部門としての特徴が発揮されなかったということなのだろう。
今回の審査は、午前にジュニア部門、午後に一般部門ということで、若干余裕が生まれたように思う。それでも午前中に審査の進行について議論があったこともあって、終了時間は例年とほぼ同じであった。審査員の皆さんには長時間の審査をお願いすることになったが、最後まで熱心に議論していただいた。
今回も様々な意見をいただき、学ぶことが多々あった。その中で印象に残ったのは、視点についての議論だった。男女の関係を扱った作品について、男性視点で書かれていることが指摘された。女性視点からすると、主人公の男性の考えや行為が独善的にすぎるので、高く評価できない、という指摘だった。
この視点の問題は難しい。作品を寄せてくれた多くの作者、ことにジュニアの皆さんは、男性視点、女性視点ということではなく、自分視点で書いているように思う。それが結果としてどちらかのジェンダー視点になるのだと思う。無意識に視点を選んでいることになるだろう。別の視点を採る、あるいは複数の視点を持つというのは、簡単なことではない。ただ、読者が自分の視点とは別の視点を持っているということを考えることはできる筈だ。そしてそう考えるだけで自分の視点に幅ができる。結果として、作品にも良い影響が出る筈だ。十分に考慮に値する指摘だと思う。
部門別の傾向に触れておく。
ジュニア部門に関しては、ショートショート的な作品が目立った。ショートショートという形式は実は難しいものだ。それでもこの形式を見事にこなしている作品が多かったというのは、すばらしいことだ。ジュニア部門が充実していることが感じられた。
ショートショート以外の作品もレベルが上がっている。ただ、あまりにも多くのものを詰め込み過ぎて作品としてのバランスを欠く傾向があった。もう少し整理することでよりよい作品となる可能性があるのに、惜しい。
ジュニア部門に関しては、完成度よりも、アイディアや発想を重視して審査を行っていただいたが、多くの要素を詰め込むことでせっかくのアイディアや発想が見えにくくなることがある。
それを避けるために応募する前に読み返す。あるいはどなたかに読んでもらうという方法もあるかも知れない。誤字脱字、計算違いといった問題を避けるためにも、事前のチェックは必要なことだ。
それでもジュニア部門で最も大事なことはアイディアや発想の豊かさである。これだけは忘れないで欲しい。
一般部門もまた、全体のレベルが上がっていることが感じられた。アイディアや発想だけではなく作品としての完成度についても多くの議論があった。プロの作家がこの賞から生まれていることを考えると、完成度について問われるのも当然のことかも知れない。
テーマとしては環境問題、AIが目立った。環境問題はジュニア部門でも多く考えられてきたことだが、一般部門でも同様な傾向が見られるようになったのは歓迎すべきことだ。AIに関しては、日常の中に入り込み始めているところもあり、作品で取り上げるには、より深く考慮する必要があるだろう。こうした話題がテーマとして、幾つもの作品に取り上げられるということは、この賞の特徴を示しているように思う。社会的な事象というだけではなく、科学的な話題として取り上げられているからだ。過去の十年の作品のテーマを見れば、この十年の科学的な話題の変遷を俯瞰できるように思う、
学生部門との統合に関しては大きな齟齬は感じられなかったが、学生の皆さんには若干厳しい結果になったかも知れない。また今回もAIによる作品の応募があった。レベルも上がっているように思う。海外からの応募もあった。日本語による応募ということで翻訳、その他の問題もあるが、この傾向を歓迎したいと思う。
日経星新一賞が十年目を迎えたことはすばらしいことだが、これは次の十年に向けての新たなスタートだ。今までにも増してすばらしい作品が多く寄せられることを期待したい。

日経「星新一賞」最終審査会 司会進行 鏡 明

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