受賞作品詳細 一般部門 グランプリ(星新一賞) 「冬の果実」 柚木 理佐 中央大学文学部卒業。会社員のかたわら、細く、長く創作活動を続ける。筆名は「桃栗三年柿八年、柚の大馬鹿十八年」より。 < 作者コメント > このたびは素晴らしい賞をいただきありがとうございます。賞が掲げる「理系的発想」とはなんぞや? 考えてもわからず、私の好きな星新一作品を信じて、思うままに書きました。抒情性や、孤独、未来への諦観と、それでも捨てきれない希望。文系的発想全開で挑んだ作品で、恐縮しています。受賞を書き続けるエネルギーとし、引き続き精進いたします。 審査員コメント 岡田晴恵 氷河期を迎える地球とさらに自身は「後天性体温調節機能不全症候群」という不治の病いが進行している。そんな絶望のなかでも、未来へ淡いけれど確固たる灯を見つけようとでもするような、人が描かれてもいます。ラストの林檎に唇を寄せるシーンは生命の息吹を感じさせます。氷結する透明な白に林檎の赤、そして生命の沸き立つような香り。その対比が象徴的です。 高島雄哉 体温が著しく下がる病というアイデアは一見して鮮烈で、読者を一気に物語世界に引き込みながら、結末は巧みに練られている。冷たくなることを拒絶する熱い血をイメージさせる〝林檎〟の挿話も印象的。文章も端正な堂々のグランプリ。 荒俣宏 低体温化するという恒温動物には由々しい「新たな危機」が日常化した世界。だが、今時のコロナ騒ぎと異なる重い静けさの中で、凍っていく地球の運命を淡々と語る患者と医師。宇宙規模の絶望と、日々の診察風景の対比に唸った。 佐竹美保 患者と博士の会話が外の止むことのない雪の世界のように静かに積もっていく透明感のある作品に感じた。なにもかもを埋めつくす白の印象にりんごの赤が強く読後感に留まっている。静寂そのものになっている作品。 鴻上尚史 とても詩的で素敵な作品でした。特に、真っ赤なリンゴと雪の地球のメタファーなど、視覚的にも素敵な作品でした。アイデアとしては、飛び抜けてユニークなものではありませんが、筆力がそれをおぎなってあまりある感じです。確かな実力を感じます。 滝 順一 激しい気候変動に見舞われても必ず息を吹き返す生命のたくましさをリンゴと氷の球に象徴させた場面が美しく感じられた。この象徴性をより鮮烈に生かすことができれば物語がより生き生きしたように思える。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 一般部門 優秀賞(アマダ賞) 「彼方には輝く星々」 木下 充矢 1965年北海道留萌市生まれ、神戸大学理学部物理学科卒。兵庫県在住の弱電エンジニア。2013年から創作サポートセンター・エンターテインメントノベル講座在籍中。好きな惑星探査機は「あかつき」。 < 作者コメント > 物心ついた頃から、SFは常に私の身近にありました。その代表的作家の名を冠した賞をいただき、身に余る誉れに打ち震えております。「鍵」を再読したのですが、やはり、いい。私も、これでもう何も思い残すことは、……いや、その、まっだまだあるんですが。ハードSF本来の新しい発想、というよりは、もうちょっと素朴寄りの、新しい知見に触れた時のワクワク感、のようなものを、私なりに追い求めていきたいと思います。ありがとうございました! 審査員コメント 岡田晴恵 高温に火傷を負うような灼熱の熱界と酷寒の極限の2つの世界の間の帯状の狭いエリアにしか、生物が住めない。それを周囲から無謀とされながらも、巨大な鏡で太陽の熱を集めを氷塊を溶かし、生存エリアを拡大しようとチャレンジする者がいる。研究者や革命児が評価を得るのは後世の検証であるのと同じように挑む。生き生きと描かれる会話が主人公を際立てています。 高島雄哉 灼熱側と極寒側のあいだの環状の領域で〝車輪びと〟が暮らす惑星という、劇的な視覚性と宇宙SFらしさにあふれた世界設定で、星の両側をつないで環境改変を試みる物語には現代性もある。物語と設定が精緻に編み込まれた秀作。 荒俣宏 もしも「理科的な思考力」という要件に、想像力の壮大さという解釈が許されるなら、この寓話も立派に理性的な作品といえる。極限的な環境に生きる生物が生き延びるには、このくらいの極限的な想像力がふさわしいと思えた佳品。 佐竹美保 スケールの大きいSF落語か講談を思わせる作品で、古典的なセリフや名称と世界のギャップがおかしく、いっきに暴走温室効果の危機をのり切っていくスピード感は圧巻。コピー原稿の余白には私の書いた車輪びとだらけである。 鴻上尚史 ハードSFのような、思弁的な作品でした。僕自身としては、表現やアイデアが少し凝りすぎて、世界観の説明に傾き、物語の展開が弱いと感じました。それがもったいなかったです。この世界でもう少し動きのある物語がよかったと感じました。 滝 順一 たいへん楽しく読めました。想像を絶する異世界、地球とはまったく異なる世界に起きる深刻な気候変動問題。登場人物たちも人とは異なる異形の生物。そんな世界観の中での落語のような会話が新鮮というか、可笑しい。ミスマッチの魔力です。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 一般部門 優秀賞(旭化成ホームズ賞) 「ポラリス」 玖馬巌 1990年生まれ。大阪府在住。京都大学経済学部卒、北海道大学CoSTEP選科Bコース修了(第17期)。民間企業にて会社員として勤務する傍ら、Web媒体や商業誌で兼業SF作家として活動。近作に『フェノティピック・プラスティシティ』( 『anon press』 (アノン株式会社、2023年9月6日更新号) 掲載)、『みをつくしの人形遣いたち』(正井編『大阪SFアンソロジー:OSAKA2045』(社会評論社/ Kaguya Books,2023年) 収録)等。 < 作者コメント > この度は素晴らしい賞を頂き、本当にありがとうございます。SFはエンタテインメントであると同時に、科学技術が社会実装された際のELSI(倫理的・法的・社会的課題)について、私たちが思考するためのヒントを与えてくれる存在だと思います。近未来のフィクショナルな技術を扱った思弁的な自作ですが、読み手の皆様の心を何かしら動かし、技術と社会、そして人間の関わりについて考える上での一助となればこの上ない幸いです。 審査員コメント 岡田晴恵 拡張人工毛髪に人間の記憶を保存するという「エクステ」。これをカット、保存するのは医療理髪師という斬新なアイディアで展開する。しかし、最後にはエクステの記憶メモリーを接続した訳ではないのに、恩師との思い出が鮮やかに蘇ってくる。生体脳のつくるイメージ、思い出には記憶の上に心情という心の作用が彩りを添えるのかもしれない。心までも描いた素晴らしい作品です。 高島雄哉 エクステを外部記憶装置としている世界を舞台に、脳を唯一の記憶〝装置〟としている常識が自然に拡張されていく。情感あふれる人物造形や作劇も心地よい。ポラリスとは何なのか──タイトルも美しく物語を引き受けていて、ベストに推した一作。 荒俣宏 この作品はアイデアの独自性という点を評価した。だが、そのアイデアをさらに高めるための物語がすこし食い足りなかった。語り口が優しいことで、エッジが利かなかったかもしれない。 佐竹美保 理髪と記憶保存を結びつける奇抜な着想だが、毛髪が脳に近いという事から考えると自然な未来像なのだろう。ミステリアスな部分を含みながら落ち着いた作品になっている。 鴻上尚史 エクステに記憶装置を埋め込むという発想が楽しかったです。アイデアとしては、とても秀逸だと感じました。まさに、人間の記憶をエクステンションしているのですから、面白いです。物語も切なくて、とてもよかったです。 滝 順一 髪の毛が外部記憶装置となり人のアイデンティティを左右するというアイデアが面白い、なぜそうなのか、そうすることに社会的な意味はどこにあるのか、そんな背景説明も欲しかったように思うが、ともかくひとつのアイデアから紡ぎ出したストーリーは読ませるものでした。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 一般部門 優秀賞(図書カード賞) 「星の灯の狭間にて」 鷹羽玖洋 栃木出身。名古屋大学理学部卒、東北芸術工科大学美術科卒。受賞歴:第8回創元SF短編賞 長谷敏司賞(久野曜名義)。 < 作者コメント > この度は素晴らしい賞を頂戴し、大変光栄です。関係者の皆様方には心より感謝いたします。優れたSFには未来社会への警鐘や示唆が含まれている、と以前に聞いたことがあります。まぎれもなく、それは星先生の作品が人々に愛され続ける理由の一つであるでしょう。先達の輝きに拙作は及ぶべくもないですが、かつてのSF世界が現実化しつつある今、科学技術や人間について思い巡らすきっかけになれば幸いです。 審査員コメント 岡田晴恵 主人は一般的に価値の見いだせない、凡人の私的な書込み本の蒐集を大切にする。私は古本屋で研究所の大先輩の蔵書を偶然見つけて購入した経験があります。ラインの引く箇所、書き込みの論文、的を射たコメントの書き込みに心打たれ、大事に保管しています。とても共感しました。また、理系的な世界に文学的な心を投入した優しい気持ちになる作品です。 高島雄哉 古書への書き込みというモチーフが非常に魅惑的。人間とロボットの対話劇が進むが、最後に物理的に残るのは古書の書き込みのみという考証には静かな説得力があり、それがそのままきれいなラストにつながっていく佳作。 荒俣宏 多くを数えたAIと人間の物語の一つだが、いかにも人間好みのする「書き込み有の古書」を題材にしたことに勇気とセンスを感じた。結末も美しいが、互いに相手が理解しえないポイントをもう少し深掘りしてほしかった。 佐竹美保 タイトルが美しい。文章がカメラのファインダーを覗き込むこうに、主と機械従僕の心情を読者に映し出している。これが映画であったなら、最後の1カットは、主と従僕の書き込みの上で紙魚が走り去っていくシーンだろうか。 鴻上尚史 とても素敵な世界観でした。上品で静謐。また、落書きの動機に関してのちょっとしたミステリーもあり、とてもよくできた作品でと思います。願わくば、ここで何か強い物語が起これば文句はなかったのですが。 滝 順一 地球の輝きが照らす静謐な宇宙区間、閉ざされた部屋での2人だけの会話。美しいイメージが心に浮かびました。古典的なSFの様式を踏まえた印象深い小品として高く評価したいと思いました。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 ジュニア部門 グランプリ(星新一賞) 「ライトコート」 竹腰 奈央 筑波大学附属中学校3年生。文芸研究会元責任者。 < 作者コメント > この度は、このような素晴らしい賞に選出して頂き、とても光栄に思います。 どれだけ技術が発達しても、人間の本質は良くも悪くも変わらないのだろう。そんな思いを、作品に込めました。 これは、学校の授業でSFについて学んだ際に、課題として執筆した作品です。そのような機会をくださった先生を始め、この作品に関わって下さった皆様、本当にありがとうございました。 審査員コメント 岡田晴恵 最後の手のひらをみる、握りしめる。未来を怖いと思うけれど信じて生きられるという表現が印象的でした。生体認証が主流となった未来ではライトコートの黒い光で体を隠し、ライトコートを着用しない人は『ノーウェア派』と呼ばれ、非難される。マスク社会となったコロナ禍を彷彿とさせました。「風の又三郎」の未来版のような名作です。 高島雄哉 顔のみならず全身を覆い隠す〈ライトコート〉という非常に優れたアイデアが冒頭で提示され、中盤以降も物語の緊張は切れることがなく、主人公のライトコートへの美しい決断が最終的に示される巧みな作品で、グランプリにふさわしい。 荒俣宏 生体情報を隠すために多くの人が「ライトコート」を着けた、というアイデアを、物語でさらに肉付けできた作品だ。自分の生体情報を裸にするこわさも書けている。「風の又三郎」を懐かしく思いだすような展開で、一気に読了。 佐竹美保 作品を読んで、-暗うつとした建物に囲まれて、黒い影があちらこちらに往来するなか、その片隅でひとつの影と一人の人間が対峙している-そんな絵が私の頭に浮かんだ。只それだけなのだが、妙にリアリティーを持って何かが始まるのをその絵は語りかけてくる。 鴻上尚史 コロナ禍の中、僕達はマスクで顔を覆いました。それがもっと過激になるとどうなるか教えてくれました。まさに、コロナ禍を体験したからこそ生まれた作品だと思いました。とても面白かったです。贅沢を言えばクローンというのは、パターンになって惜しいと思いました。 滝 順一 行きすぎた個人情報保護をSF的発想でとらえたアイデアが卓抜でした。ライトコートを脱いでみたらふたりは同じ顔という展開にも新鮮な驚きがありました。クローンの存在を前向きに扱って明るさを感じさせるエンディングにしたのも感動的でした。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 ジュニア部門 準グランプリ 「おいしい世界の歩き方 東京」 田中 文瑛 2008年滋賀県生まれ。東京都在住。中学生。 趣味は食べること、読むこと、書くこと。 < 作者コメント > このたびは、私の尊敬している作家、星新一の名を冠する賞をいただき、大変光栄に思います。 ある日、コンビニ飯を食べていた私は、食後に出るごみが意外と多いことに気が付きました。そこで、ごみまで人間が消化すれば、ごみ問題もなくなると考えたのが執筆のきっかけです。「ごみ袋」が「胃袋」になる、ディストピアを描いたつもりです。 近未来をお楽しみください。 審査員コメント 岡田晴恵 「ごみ」は死語です。という一文にこの作者の執筆の意図・目標を感じました。普段から問題点を見つけ、それに対して思考する方なんだろうと思います。アイディアが斬新です。東京を食べるという発想に驚きました。 高島雄哉 食べることができる建築を紹介していくガイドブックという、二重三重に斬新で素晴らしい。なぜ食べるのかという設定には現在の環境問題への顧慮もあり、知的で「理系文学」らしい傑作。これ以外ないというタイトルも楽しい。 荒俣宏 奇想の物語は星新一さんも得意としたものだったので、楽しく読んだ。文章に皮肉が交じり、ジュニア離れしている。特筆すべきは、東京の歩き方ガイドブックを装いながらも、各名所や建造物を、触感や味覚で表す機智である。 佐竹美保 初めは話部と本の筆者の二次形式と思わせ、いつの間にか読み手を引きずり込んだ三次形式になっていたおいしいガイドブック。知らず知らずの打ちに自分の持っているペンは何味だろうかと思ってしまった。実際今、電気通信大学の教授が食べられる素材でロボットやドローンを開発されている。 鴻上尚史 楽しくて、読んでいてワクワクしました。アイデアとしては、抜群に秀逸です。なおかつ、ユーモアがある点も素晴らしいです。贅沢を言えば、こういう社会で、どんな物語が展開するのか、それが読みたかったです。でも、面白かったです。 滝 順一 理系的な発想とかはどこかに投げ捨てて奇想天外な、誰も考え付かなかったアイデアに全てを投入した物語がとても心地よく感じられました。それぞれの建造物の紹介ぶりにもユーモアがあって思わず笑いが漏れました。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 ジュニア部門 優秀賞 「見えない力」 岡田 頼和 2010年東京生まれ。世田谷学園中学校在学中。 鉄道旅行、お笑い、野球観戦好き。 < 作者コメント > 星新一先生のショートショートが大好きなので、今回の受賞は大変嬉しく、同時に大変驚いています。 「迷惑をかけずに安全に家に帰る」という当たり前のことを100年後の未来では解決していてほしい!と願って書きました。 僕の作品を選んで下さいました審査員の先生方、機会を与えて下さった学園の先生方へ心より感謝しています。有難うございました。 審査員コメント 岡田晴恵 認知症の患者さんが家に帰れるように道案内付きの靴。ご家族の中で高齢の方がいて、徘徊してしまったという経験があったのでしょうか。凄いアイディアです。驚きましたが、見えない力、魔法ですね。 高島雄哉 病院の忘年会から始まる物語に、認知症患者の徘徊対策に開発された自動で動く靴が、きわめて自然に組み込まれる卓越した作品。軽快な文章で一気に読み進んで、秀逸のラストに──作中の院長のように──導かれていく。 荒俣宏 形式はショートショートに近い。この形式は展開の速さと、幕切れの落ちにあるが、うまく書けている。ただ、文章がすこし素気ないので、小学生の作品かと思われたが、二次会、三次会に行きたがる大人の癖も承知で、しかも高度な漢字を使いこなしていることに気づいた。ふしぎな書き手である。 佐竹美保 忘年会の様子を容易に想像させ、テンポ良い会話に読ませる力を感じている。落としどころもストンとしていて小気味良い。結末に笑いがある唯一の作品でショートショートの醍醐味を持っている。 鴻上尚史 惜しいです!最後、院長がどうして家に帰るのか。じつは院長は酒乱で、酒を飲んで酔っぱらっているから、みんなが迷惑している、それを予防しようとして、、、という文章が一行入っていたら、この作品がグランプリでいいと思いました。 滝 順一 子どもの目からは大人の忘年会ってこんなふうに見えているんだという点がまず新鮮。とてもおかしく楽しめるように書かれています。オチにちょっと不明瞭さが残ったのは残念。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 ジュニア部門 優秀賞 「エーアイさんへ」 岩本 名央 大阪府生まれ、大阪府在中。中学生。 趣味は読書、音楽鑑賞。 太宰治、森鴎外、江戸川乱歩などの近代文学から、青山七恵先生の純文学や恩田陸先生のミステリーなど、時代を問わず幅広いジャンルを読む。 将来の目標は作家。 < 作者コメント > この度は、素晴らしい賞をありがとうございます。この作品は、主人公が書いた文章だからこそ伝わることもあると思い、手紙という表現を用いて書かせていただきました。 そして、AIの活用があたり前になっている時代に生きる人たちに、病や老いを止められないやるせなさが、より一層強まるのではないかという考えを基にしました。 選出してくださった選考委員、審査委員の方々に心から感謝します。 審査員コメント 岡田晴恵 AIが人として実在すると思っている小学生が、AIに向けて手紙を書きますが、主人公はAIの技術を「魔法」だと言います。その魔法でおばあちゃんの認知症を治してくれとAIに頼むのです。そして、自分もそんな魔法が使えるようになりたいというのです。サイエンスをやって素晴らしい革新的な技術を作ってください。 高島雄哉 人工知能に対する極めてみずみずしい感性/感度に、率直に心打たれる。手紙形式を採用することで、ドラマにくっきりとした抑揚を与えつつ、今回のジュニア部門の課題である「100年後の未来」にもあざやかに応える、素敵な作品。 荒俣宏 かわいらしいお話。AIの能力を「魔法」と見ている点も、ジュニアらしい発想で好感がもてた。しかしよく読むと、語り口が非常に巧みであり、文才を認めえた。 佐竹美保 切実なおばあちゃんの状態を直して欲しいとエーアイへお願いする手紙からエーアイの正体がわかった後の手紙で終わる構成の中で少女の真っ直ぐな心の動きが読みとれる。AIに振り回される大人とは違う一人の少女の決意がたのもしく感じられた作品だ。 鴻上尚史 ほのぼのとした、愛すべき作品です。これからの未来、本当にこんなふうにAIのことを思う子供も出てくるだろうと思います。そして、それを困惑の表情で見る大人と。まるでサンタさんに手紙を書く子供と大人のように。素敵な作品でした。 滝 順一 AIに対するもろもろの批判や心配が世の中には渦巻いていますが、そんなことは横に置いて、技術が人に幸福をもたらす魔法のような存在であって欲しいという率直なメッセージには納得感がありました。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 ジュニア部門 優秀賞 「星になる」 名もなき佐助 2008年生まれ。筑波大学附属中学校在学中。2024年4月に筑波大学附属高等学校へ進学予定。 < 作者コメント > 今回受賞することができて、驚くと共に本当に嬉しいです。昔から本を読むのが好きで、最近SFにも手を出しており、その魅力に取り憑かれています。 小説を書いたのは初めてですが、ショートショートということもあって手軽に取り組め、書いていて楽しかったです。作品については、いつの時代でもテーマにされやすい『価値観の違い』を書いたつもりです。 100年後が幸せな時代であることを願っています。 審査員コメント 岡田晴恵 激化、長期化した第4次世界大戦が残した傷跡は決して浅くなかった。雨のように降り注ぐ原子爆弾の影響で、地球は完全に放射能に汚染された。各国の首脳が事の重大さに気づき、慌てて停戦協定を組んだ時にはもう遅かった。地球はとっくに生物が暮らせるような環境ではなかったのだ。この文章に反戦、平和を強く意識して描かれていることを感じた作品です。 高島雄哉 冒頭からさりげなく〈ドローンドライヤー〉を登場させる一方で〈手動ミル〉を使ってコーヒー豆を挽くことで、端的に時代や技術レベルを示す流麗な文章。今回両部門に複数あったクローンテーマの中でも優れた結末にたどりついている。 荒俣宏 多くのジュニアが関心を寄せた「クローン」テーマ。しかしこの作品がもっとも気に入った。第一に、登場人物がオリジナルなのかクローンなのか、答えを巧みに伏せておく手際、そして背景となる人間破壊の破滅もリアリティーがあり、宇宙船出発の秒読みに合わせて人生が回想される場面もみごと。 佐竹美保 クローンと人間の恋は成就なるのか。柔らかいクローンのしぐさの描写が、黒いガラス玉のような目を組み込む事で何とも言えないクローンの存在感を浮きだたせている。言葉の使い方が気になる。 鴻上尚史 じつに切ないストーリーで素敵です。アイデアもオチが効いていると思います。贅沢を言えば、どうして懐かしい故郷の映像になったのか、なった後、物語が進む形で、ユウキの秘密が分かればいいと思います。でも、素敵な作品でした。 滝 順一 クライマックスのどんでん返しの展開がうまい!と唸ってしまいました。前半の流れがちょっと長くてお話がどこへ向かっているのかに戸惑ってしまいました。 日経電子版 で読む 作品は、 で無料配布しています。 ※ 利用開始登録(無料)が必要です。 第11回 日経「星新一賞」総評 第11回を迎えた今回の日経星新一賞は、例年通り多くの応募をいただいた。応募者の皆さんの努力に心から敬意を表すると共に、感謝したいと思う。 今回、特筆すべきは、生成AIによる作品が第三次審査まで残ったことだ。最終審査まで残ることはなかったが、それでも、今後を考えると、新たなページが開かれたと言っても良いだろう。 星新一賞は、第一回から、AIによる作品の応募を認めていた。それは人類以外の知性を認めるという姿勢を示すことでもあったし、AI研究の発展を期待するという側面もあった。そして今回は、生成AIによる作品が二次審査を突破することとなったわけだ。わたしは三次審査に参加していたが、そこに生成AIによる作品が含まれていたことには、全く気が付かなかった。 AIによる作品がふくまれていると、事前に知らされていたら気が付いたかも知れないが、審査は予備知識なしで行われる。当然のことだが、すべての作品がバイアスのかからない状態で審査されるわけだ。 その結果、AIによる作品は最終審査に残すに値しないという評価になった。生成AIによる作品のオリジナリティの限界をどのように克服するか。難しい問題が控えているようにも思うが、それでも、今後数年の間に、AIによる作品がグランプリを受賞する可能性は十分にある。 今回の最終審査は、対面で、マスクもアクリル板もない状態で行われた。4年ぶりになるが、審査員のみなさんの意見交換がスムースになっていたように思う。 審査は例年通りジュニア部門から始まった。ジュニア部門の大きな傾向はAI、異常気象、コロナ禍の影響、と言ったものが見てとれたが、ネガティブなものよりもポジティブに捉えているものが多かった。全体にレベルが上がっており、例えば大人の社会を描いても、無理なく自然に描いていることが多かった。文章力の向上が読み取れたように思う。ただ、それとは逆に、ジュニアらしいアイディアに満ちた作品が減ってきたようにも思う。ジュニア作品の評価に関しては理系的な思考を重視するのではなく、より自由な発想を重視するという方法をとっている。ジュニアだから、こうあるべきという思い込みは不要だが、やはり自由な発想を期待したい。特に小学生の皆さんの作品を楽しみにしている。 一般部門の審査は、難航した。審査員の数を偶数にしているのは、この賞の特徴の一つだが、それは機械的に多数決で決定していくという方法がこの賞には相応しくないという考えによるものだが、当然のことながら、一つの作品に対して入選かどうか、賛否同数であれば、決定できないことになる。再討議の上、再投票していただくことになるが、それでも決定できないという事態は起こるわけだ。これまではそのような状況が起きたとしても、結果的に問題なく推移してきたのだが、今回はいくつもの作品に対して決定不能という状況が起きた。星新一賞は、該当作なしという方法は取らず、必ず入選作、グランプリを選出することとしている。それはこの賞が応募者を支持し勇気づけることを意図しているからで、該当作なしということは、その意図にそぐわないからだ。 毎回、作品のレベルは向上している。審査員の皆さんには事前に投票していただくことになっているが、そこで上位となった作品は、例年と比較しても、遜色のないものだった。ただ、圧倒的に票を集める作品が見当たらず、結果として票が分散してしまった。また事前投票で下位にあっても、議論の中で評価が上がる作品もある。そういう作品が生まれてくることが、審査員の皆さんに集まって論議していただくことの意味である。今回、入賞候補となる作品がなかなか決まらなかったのは、このような幾つかの要素が働いた結果だと思う。こうした状況の中で、審査員の方から、興味深い指摘があった。それは例えば、ある作品を極めて高く評価する審査員の一票の重さが結果に反映されていないのではないかということだった。今風にいえば「推し」の強さをどう捉えるか。それを反映すべきではないかということになるだろう。この意見に応じて、審査員が複数の票を持ち、それを自由に分割して投票したらどうかという意見が出た。詳細は避けるが、要するに、自分が強く推す作品に全ポイントを投じることができるという方法だ。審査員の皆さんの賛同を得て、この方法で投票することになった。審査会の中で審査の方法について議論するというのは、異例であり、しかもそれに多くの時間を費やすという事態は避けるべきなのだが、今回は良い方向に働いたように思う。また、審査員の皆さん個人的な熱量を結果にいかに反映させるかは、難しい問題でもある。今回に関しては、問題はなかったが、一人の声の大きさが結果を左右することもありうるからだ。 今回の一般部門は、AIを扱った作品が目立った。その扱いに工夫が成されていることが、興味深く感じられた。人類との共存が前提とされているように思える。また、物語として、静的な、あるいは、牧歌的な雰囲気の作品が目についた。今回の特徴と言ってもいいだろう。最新のテクノロジーと旧式の技術を結びつけるという試みもあった。こうした新たな組み合わせを探す試みはさまざまな形でなされている手法の一つだが、十分に機能するように思う。 一般部門ではアイディアだけではなく小説としての完成度も重要な評価対象となる。素晴らしいアイディアなのに、そのアイディアを活かしきれない作品がいくつかあった。難しい問題だけれども、アイディアを活かすためには、全体を切り詰めて短いものにするという決断が必要な場合がある。一万字という規定があるが、それはその長さでなければならないということではない。 今回もジュニア部門、一般部門ともに素晴らしい作品を応募してくれた皆さんに感謝したい。皆さんの作品から多くの示唆や、新たな視点が審査会の中で生まれていた。その全てをお伝えできないが、それがこの賞の価値を高めているのは確かだ。最後になったが、審査員の皆さんの知見と意見は素晴らしいものだった。感謝したい。また、審査員の中にこの賞の入賞者がいらっしゃった。日経星新一賞が積み重ねてきた時間を実感させてくれた。素晴らしいことだと思う。 日経「星新一賞」最終審査会 司会進行 鏡 明