一般部門 グランプリ(星新一賞)

「恐怖の谷」から「恍惚の峰」へ ~ その政策的応用
遠藤 慎一 (52)
1962年、東京都生まれ。大学ではシステム工学、大学院では海洋環境科学を専攻。科学雑誌の編集者や記者、映像ソフトのプロデューサー などをへてフリーランスになり、現在は藤崎慎吾の筆名で科学関係の記事 やノンフィクション、およびSFや伝奇小説、ミステリーなどを執筆している。家族は妻と息子およびリクガメ1匹。
< 作者コメント >
論文のような形式でも文芸や娯楽作品を書けると示せたら、研究者の方々による「理系文学」が誕生しうるのではないか。そう考えたのは何年も前のことですが、星新一賞のおかげで、ようやくその実現性を試すことができました。しかし多くの星新一作品がもたらす、ふいに世界が裏返るような感覚の記憶と、「人工知能でも応募可」という斬新な規定がなければ、この結果は得られませんでした。星先生と関係者の方々に深く感謝致します。一般部門 準グランプリ(IHI賞)

ピロウ
相川 啓太
理学博士。現在、沖縄県内のバイオベンチャー企業に勤務。
< 作者コメント >
星新一先生のお名前を冠した栄誉ある賞におきましてこのような評価を頂戴し、大変光栄です。今回題材とした3Dプリンタの他にも、万能幹細胞、ウェアラブルデバイス、仮想通貨など様々な技術が開発され、世の中はどんどん変化しています。もしも星新一先生が2013年に小説を執筆されたらどんな作品が生まれていたのだろう? そう考えながら本作のプロットを考えました。お読みいただいた皆様に楽しんでいただければ幸いです。審査員コメント
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新井素子
よくできているショートショートだと思う。問題の「ピロウ」、無料版をダウンロードし、3Dプリンタで出力する間のCMのブラックぶりもいい。主人公にはぜひがんばっていただきたい。
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益川敏英
作品内容が星新一の世界観を非常に踏襲しており、「星新一賞」としてむいていると感じた。結論の出し方に意外性があり、面白い作品だと思った。
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野口聡一
自殺のための器具を注文するという、一見暗いテーマを喜劇的に描いていて、面白かったです。最後は自殺をあきらめて生きていこうという明るい結末になっているのも好感が持てました。
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石井裕
星新一ワールドのブラックでコミカルなスタイルを受け継いだ、現代版ショートショート。広告つき無料お試しソフトの引き起こす悲喜劇を軽妙に語る秀作。
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朝倉啓
3Dプリンタが当たり前になった社会における意外な使用方法を題材にして、コミカルな結末となっており、ストーリー展開上も星新一賞にふさわしい作品と思われる。
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滝順一
ドタバタでコミカルな要素あり、希望の光が差し込むラストまでの物語性といい、星新一的ショートショートにふさわしい作品である。読みやすさ、面白さを高く評価したい。うまくまとめ過ぎた点が最後の最後で食い足りなさにつながった面もある。
一般部門 優秀賞(JBCCホールディングス賞)

認証
春名 功武 (36)
脚本家。2000年大阪シナリオ学校演芸放送台本科卒業。放送作家となり漫才台本、番組制作に携わる。その後、第7回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞受賞をきっかけに、脚本家となる。
< 作者コメント >
待ちに待った文学賞でした。わたしは星新一さんに憧れ、ショートショートを書き続けてきました。しかしショートショートには文学賞がなく、苦肉の策で、長編小説の公募にショートショート集を応募するといった、無謀なことをやってきました。だからこの賞の存在を知った時、全身をアドレナリンが駆け巡りました。素晴らしい賞をいただき、光栄です。この受賞を機に、たくさんの方に読んでいただけると嬉しいです。審査員コメント
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新井素子
このお話、私はかなり受けた。セキュリティー会社の社長宅をわざわざ狙って侵入しようとする泥棒の話なんだけれど、途中からどんどん笑えてくる。オチも決まっていると思う。
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益川敏英
小説としては面白いかもしれないが、セキュリティーに用いる数学や理論を研究してきた私にとっては違和感を感じる内容だった。
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野口聡一
最新式の防犯技術のオンパレード、でも実は鍵は最初からかかってなくて泥棒がやっていることは全く無駄だったという、星新一ワールドの王道を行くようなユーモアが効いた作品でした。
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石井裕
侵入者に対抗する「セキュリティ」という重要問題を、こっけいな泥棒のどたばた喜劇を通して、星新一的な軽妙なスタイルで描いた笑える秀作。
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朝倉啓
セキュリティー認証を題材にして、思いもよらない展開がされており、読んでいて思わず引き込まれてしまう作品である。全体としてユーモラスな内容であるが、理系的発想に立脚しているところがなかなか面白い。
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滝順一
え、そこまでやりますか、という徹底したスラップスティック・コメディぶりが楽しい。
一般部門 優秀賞(東京エレクトロン賞)
朝に目覚ましの鳴る世界
窓川 要
< 作者コメント >
このたびは名誉な賞をいただき光栄に思います。審査員ならびに事務局の皆さまには心から感謝申し上げます。子供の頃から星新一先生の作品を読んで育った身として、また理系文学の一ファンとして、これほど嬉しいことはありません。ロボットでも人工知能でも宇宙人でも未来人でもない平々凡々な人間で恐縮ですが、ありがたく頂戴いたします。このユニークで革新的な賞の、今後のさらなる発展をお祈り申し上げます。審査員コメント
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新井素子
小説としてよくできていると思う。本文中の”私たちは有史以来探し求めてきた「愛」なるものを遂に明確に捉えられるようになった。”以下の断言は、ちょっと凄い。
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益川敏英
話にリアリティを感じた。個人的には「死」をこのように捉えているのは何故なのか、作者自身に問うてみたいと思った。
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野口聡一
愛する家族を失ったとき、その記憶はどのように保ち続けるのか。根源的なテーマを3Dプリンタという新技術も取り入れつつ、非常に切なさを感じさせるストーリーでした。
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石井裕
人間の身体を印刷し、人格データをそこにダウンロードできる未来の不条理を描く、ブラックな秀作。
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朝倉啓
3Dプリンタの発達が人の命のあり方まで根本から変えてしまう可能性があることを考えさせられた作品。ストーリーの展開や意外な結末などショートショートのスタイルとしても秀逸である。
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滝順一
せつなさあふれる作品だ。3Dプリンタで毎日製作される「簡易肉体」にはグロテスクさを感じる。肉体が崩れる瞬間の描写は衝撃的ですらある。そうした負のイメージを超えて訴えかける物語の力がある。
ジュニア部門 グランプリ(星新一賞)

おばあちゃん
松田 知歩 (15)
立命館宇治中学校 在学中
< 作者コメント >
今回このような賞をいただくことができて、とてもうれしく思います。最初に受賞のお話をいただいた時は、ただただ驚き、頭の中が真っ白になりました。以前に星新一さんの本を読んだことがあり、すごくおもしろかったので、その名前の賞をいただくことができたのは、すごくうれしいです。審査員コメント
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新井素子
主人公の翔太がどんなにおばあちゃんが好きだか、読んでいてよく判る。ちょっと切ない感じがよくでていて、いい雰囲気のお話になっていると思う。でも、最後の段落は余計だったかも知れない。
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益川敏英
ジュニア部門で「死」をテーマに作品をだしてきたということにまず新鮮な驚きを感じた。強烈な体験をしたのだろうか。小説としては良くかけているので、本人に話を聞いてみたいと思った。
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野口聡一
大事なことは人がいつまで「生きられる」か、ではなく「生きるべきか」なのだということを表現した、とても考えさせる作品でした。再生治療や超高齢化社会問題など、最近の社会的トピックも上手に取り入れられていたと思います。
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石井裕
テクノロジーの進化により、心臓停止後も、人間の寿命を長らえさせること、そして第2の心臓を自分の意志で停止させる(=死ぬ)ことが可能となる未来の物語を通して、幸福な人生とは何かを問う秀作。
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朝倉啓
医学の発達で自然死の後も生き続けられるようになった社会を描く一方で、高齢になって若い人達に迷惑をかけないために死も選べるというシリアスな課題まで内包した作品である。シンプルなストーリー展開ではあるが、死についても考えさせる含蓄ある点を評価したい。
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滝順一
尊厳死について深く考えさせるきっかけを子供の視点から提起している。現代社会は死に接する機会が少なくなったとされるが、「第二の心臓」というしかけをうまく用いて、死の選択という過酷な状況に向きあっている。翔太くんの涙が美しい。
日経「星新一賞」の審査について
日経「星新一賞」の審査はこれまでの文学賞とは異なる形で行われました。特に審査員の構成はとてもユニークなものでした。ノーベル物理学賞の受賞者や宇宙飛行士、そして科学の最先端で活躍している方々が審査をする文学賞、それだけでなんだかわくわくしてきますが、それと共に何が起こるか、誰にもわからないという不安もありました。理系文学というこれまでなかった新しい概念の文学賞には、新しい形が必要だと考えて、このような形をとったのですが、結果を先に言えば、私の期待以上のとても素晴らしい審査が行われたと思います。
最初に行われたのは、ジュニア部門の審査でした。最終選考に残った作品について、それぞれ審査員が意見を述べるという形で審査を始めました。
総じてジュニア部門の作品については好意的な意見が多く出ました。科学的な思考という意味では、問題があってもその背後にある想像力を大事にしたいという思いが、審査員の皆さんの意見の根底にあったように思います。そして特筆したいのは、皆さんの意見が、作品の中にとどまらず、より大きな視点から語られる事が多かったことです。具体的に言うならば、現在における科学、そして技術の果たすべき役割、そして、そうした科学を扱う科学者としてのあり方、ことに科学者の倫理について様々な議論がありました。小説としての完成度を越えて、倫理的な問題が語られるというのは、おそらく他の文学賞では起こらない事でしょうし、科学という、ともすれば論理が支配すると考えられがちな世界が、実は極めて人間的であり、倫理的であるというのは、議論を聴いていた私にとっても、とても刺激的なものでした。
一般部門の審査は、倫理的な問題は常に意識されていましたが、それ以外にも、例えばリーダビリティについての意見があったり、小説としての完成度、あるいは文体についての議論があり、より文学賞的な側面についての議論がありました。そして理系である事についての議論もありましたし、例えば、科学論文との差異についての意見が出てくるなど、極めて興味深い審査であったと思います。その中で繰り返し語られていたのは、アイディアや思考の独自性、ユニークさでした。おそらくそれこそが科学の本質ではないかという印象がありました。これらの議論を審査会場の中だけにとどめておくのはもったいない。そう思えるほど、多くの示唆に富んだ議論が成されていました。
私個人の全体的な印象は、応募作品のレベルはかなり高いと思いましたし、審査員の方々の深い知見はこの新たな文学賞にふさわしいものだと感じました。この審査の結果が、次の日経「星新一賞」につながる事と、信じています。
日経「星新一賞」最終審査会 司会進行 鏡明

審査員コメント
新井素子
論文の形式をとった小説。形式が形式なので、一見とっつきにくく思えるのだが、すらすら読めて驚いた。作者の文章力はとても高いと思う。グラフや図も文体の一種だと思えば、非常に印象的な文体である。
益川敏英
賛否両論はあったが、実論文の書き方を非常に踏襲した書き方で、強い印象を受けた。論理の展開も実際の論文に即して行われており、印象深かった。
野口聡一
論文という非常に理系的な文章構成を取りつつも読みやすい作品になっているのに感心しました。また、2064年の未来に人工知能が生身の人間を研究して論文を書いているという状況設定もエッジが効いていて面白かったです。
石井裕
究極の人工知能進化の先に来る恐怖の未来を、科学的論理を駆使し、斬新なスタイルで予見する傑作。理系的発想力と科学的推論力のパワーを見せつける、「星新一賞」グランプリにふさわしい作品。
朝倉啓
学術論文スタイルでのフィクションという斬新さは、初代の理系文学賞グランプリとしては、ふさわしいものであると思う。内容も人工知能と人類とのインタラクションに関するもので理系的に新鮮なアイディアに基づいている。ただ、この論文スタイルが今後の賞の方向性を決めるものではないことを付言しておきたい。
滝順一
科学論文形式のスタイルの斬新さを買う一方、科学用語や記号がほとんど説明抜きで提示されることへの違和感をどうみるかで評価が変わる。星新一のショートショートのイメージにこだわらず、あえて冒険的な新しさを重視しての選択となった。