受賞作品詳細

星新一賞

一般部門 グランプリ(星新一賞)

「ローンチ・フリー」

佐藤 実

北海道生まれ。東海大学理学部講師。専門は物理教育研究、宇宙エレベーターなど。著書に『宇宙エレベーターの物理学』『マンガでわかる微分方程式』など。

< 作者コメント >
低く垂れ込める雪雲の下、冷えた硬貨を握りしめて小さな本屋に走り、人生で初めて買った文庫本が『ようこそ地球さん』でした。隅から隅まで舐めるように読んだ中でも、わずか5ページの「空への門」に惹かれ、主人公のその後の人生がずっと気に掛かっていました。北国でも南国でも、都会でも田舎でも、そして昔も今も、大勢の心に星新一は刻まれています。この小品は、私の中に刻まれた星新一から芽生えた物語です。

審査員コメント

  • 東野 司

    一読して、うなりました。グランプリだと確信した作品です。1万字の中に見事なドラマがあります。男の矜持、思い。そのために男はただひたすらペダルをこぐ。本当に宇宙が見えました。ただひとつ、より詳しいケーブルの描写が欲しかったです。

  • 押井 守

    「ザ・ライトスタッフ」を見て涙を流した男の子なら、この主人公に深く共感できる筈です。ディテールの描写も巧みで、文句なしの力作。グランプリに相応しい、完成度を感じさせる一篇です。

  • 向井 千秋

    宇宙エレベーターが普及し多くの人が簡単に宇宙に行ける時代に、宇宙飛行士が人力で宇宙に挑むロマンと悲哀が描かれていて興味深い。

  • 真鍋 真

    人力で高度100キロメートルの宇宙を目指すこと、それは究極の登山のようなものかもしれません。人間の限界を問う、どんな時代になっても、人間はそれを知りたいと思うとしたら、それこそ人間が生きものである証なのかもしれません。

  • 牧野 隆

    宇宙空間における描写のリアリティを感じられる冒険作品であり、ワイヤーが切れる前後の表現の緊張感が高く、ドキドキするのが楽しい作品です。宇宙エレベーターを人力で登る必然性がうまく表現されていると最高です。

  • 滝 順一

    不可能に、何の見返りも期待せず、ただ自分の存在証明のために挑戦し、命を落とす。男性のロマンチックな心情をSF的な道具だての細部を大事にしながら描き出した。しっかりした構成力とSF的なセンスを感じる。

作品は日経ストアで無料配布しています

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一般部門 準グランプリ(IHI賞)

「その空白を複製で」

人鳥 暖炉

京都大学薬学部卒。博士(薬学)。在学中より現在に至るまで遺伝子工学の研究に携わる。

< 作者コメント >
私が遺伝子工学を志すきっかけとなったのはマイクル・クライトンのジュラシック・パークを読んだことでした。それを考えると、私自身が未来の科学技術を小説として描き、そしてそれがこのような栄えある賞に選出されたことには感無量です。もしこの作品が誰かにとって、今はまだサイエンス・フィクションな何かをサイエンス・ノンフィクションにしたいという野望のきっかけとなることがあれば望外の喜びです。

審査員コメント

  • 東野 司

    読む人の心を存分に刺激する話でした。二転三転していく話の展開もよくできています。ただ、アイデアの核である意識の扱いや記憶との関連性をもう少し話の中に落とし込んで、丁寧に描写されると、より伝わってきたかと思います。

  • 押井 守

    双生児の姉妹。クローン。記憶の再生とバイオ系の主題を盛り込んだ作品ですが、語り口はむしろ情緒的で文芸作品としての魅力が感じられます。敢えて謎をかけた結末も効果的で、深みのある読後感を残しています。

  • 向井 千秋

    人体をも丸ごとコピーできる時代に、オリジナルとコピーの区別はなんであるのかを考えさせる作品で興味深い。

  • 真鍋 真

    デジタルの世界の中では、オリジナルとコピーという区別は全く意味を持たないかもしれません。そして、コピーの方がオリジナルよりも優れていたりするかもしれません。オリジナルの意味、それが問われる時代がもうそこまで来ているのかもしれません。

  • 牧野 隆

    姉妹のオリジナルがどちらか?事実が2重3重に入れ替わる展開であり、作者が意図したとおり(?)、読者に非常にモヤモヤさせる作品です。この最初から最後まで一貫した不安定さが素敵な作品でした。何度読んでもモヤモヤします。

  • 滝 順一

    姉妹をめぐる不思議な味わいで少し悲しい話としてうまくまとまっている。記憶と意識、脳といった科学的な素材をもうひと味生かせばSF的な妙味も増したと思う。

作品は日経ストアで無料配布しています

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一般部門 優秀賞(JBCCホールディングス賞)

「第37回日経星新一賞最終審査 -あるいは、究極の小説の作り方-」

相川 啓太

理学博士。民間企業に勤務。2014年「ピロウ」で第一回日経「星新一賞」準グランプリ(IHI賞)を受賞。2015年「次の満月の夜には」で第二回日経「星新一賞」グランプリを受賞。

< 作者コメント >
三度にわたりこのような評価を頂き誠に光栄です。2015年は人工知能の進歩や、それにともなう様々な可能性が広く議論された1年でした。人工知能が発展したそう遠くない未来に創作の場はどうなっているのか?そんな未来について私なりに考え、小説にしてみました。皆様に楽しんでいただければ幸いです。私個人としては、この小説のような未来が来るのはまだまだ先のことであってほしいと願っています。

審査員コメント

  • 東野 司

    こうきましたか。星新一賞に特化し、1万字という制限をついてくるアイディアにうなりました。ずるいなぁと思いながら、とても面白く読みました。アイデアを支える論理もよく考えられていますが、話としてはラストがおとなしかったです。もっと、とんでもない「発散」があるとよかったです。

  • 押井 守

    文学賞そのものに特化したアイデアが全てで、禁じ技スレスレの作品ですが、この作品で応募した行為そのものにメタ・フィクショナルな面白さがあり、無視できない一篇になっています。但し、この手は一回限りです。

  • 向井 千秋

    人工知能により作られた人類史上最高に面白い小説に魅せられた人間の評価者と、人工知能審査実行委員会との会話をとおして小説創作の未来像や問題点が描かれていて興味深い。

  • 真鍋 真

    これまでに存在した文字情報の再配列によって、AIが文学賞を受賞するにふさわしい作品を作り出すことができるのか?俳句や短歌であれば、もっと簡単にAIが参入できるかもしれません。でも私たちはそれを求めていないのかもしれません。

  • 牧野 隆

    最近はやりのAIでの作品制作のアイディアではなく、乱数的な単語の組み合わせで、天文学数の作品を制作し、応募するアイディアは秀逸です。本賞への応募にターゲットを絞った作品であり、評価が分かれましたが、AIの最近の動向を踏まえ、ある種の技術的な匂いも感じられ、個人的には大変面白い作品だと思います。

  • 滝 順一

    一度きり、しかも星新一賞でしか使えない設定を大胆に採用した度胸に感心。意表をつくが、落ち着きどころは割と常識的。スカイダイビングのような緊張と弛緩を審査員に与えてくれた。

作品は日経ストアで無料配布しています

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一般部門 優秀賞(東京エレクトロン賞)

「プロテイナ」

佐原 淘

1964年新潟生まれ。工学部電子情報工学科卒。テレビ番組ディレクター、プロデューサー。2010年、第1回みちのく怪談コンテスト大賞受賞。現在、放送大学大学院修士選科生。

< 作者コメント >
子供の頃から読書といえば、ほとんどSFばかり読んで来ました。星先生の名を冠した賞をいただけるとは喜びで天にも昇るような気持ちです。審査の先生方、ご関係の皆様に感謝申し上げます。今でもSF作家の夢をあきらめきれず科学を学んでいます。この作品は分子シャペロン(ストレスタンパク質)や遺伝子修復の働きを知った時の感動が元になっています。

審査員コメント

  • 東野 司

    プロテイナの社会的意味付け、現代のネット社会への批判的な目など、話の展開が面白かったです。ラストの着地もよかったです。ただ、プロテイナそのものの描写が、漠然とした所と詳細な所が混在していて、レベルが統一されず、そのために、プロテイナのイメージが把握しづらかったところが残念です。

  • 押井 守

    社会的弱者への攻撃という陰惨な現実に、テクノロジーが救済をもたらす可能性を描いた意欲作です。ネット社会における陰惨なイジメの描写にはリアリティがありますが、肝心の謎の物質に具体的な描写が不足しているのが残念。

  • 向井 千秋

    タンパク質の構造に類似したプロテイナという玩具の集合体が社会を円滑にするシステムを構築していくというストーリーが興味深い。

  • 真鍋 真

    未来社会においても、社会には敵意や攻撃が蔓延しているようです。こどもがタンパク質をまねた奇妙の玩具によって、そのような攻撃から母親と自分を守ることが出来たら、そこには夢と希望があるのかもしれません。

  • 牧野 隆

    母子家庭との設定から、話の展開が面白い作品です。それぞれの部分のつなぎを丁寧に表現し、話の連続性をわかりやすくすると、さらに良い作品になると思います。

  • 滝 順一

    攻撃性の高い社会の緩衝材となる存在があったら、社会はどう変わりうるか。大きなアイデアの提起がされている。そのアイデアの展開、発展が読みたかった。

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一般部門 優秀賞(アマダホールディングス賞)

「ビットフリップ」

月立 淳水

大分県出身。大分高専(制御工学)、筑波大学・院(熱流体力学)を経て現在IT系民間企業のヒラ社員。もし物書きになるとすれば、目指す姿はアイザック・アシモフ。妻、娘、猫4匹と暮らしています。

< 作者コメント >
文章を書くことが大好きで、趣味で小説を書いて遊んでいましたが、日経サイエンス誌上の広告に誘引されて応募しました。アイデアのきっかけは、どうしても無くせない情報機器のビットエラー(ビットフリップ)。ふと、「むしろ誰もがビットフリップを経験する世界になってしまえ」という悪ふざけ的妄想をした結果がこんな賞を頂くことになってしまい、うれしいよりも驚きでした。

審査員コメント

  • 東野 司

    いやあ面白かったです。出てくる数字も正確で、ビットフリップそのものについては面白く読めました。ただ、話が弱かったのが残念。この素材でもっとドタバタに、それこそビットフリップによって世界中がギャンブル経済になってしまうことなど、メチャクチャがあれば、より面白かったです。

  • 押井 守

    ビット反転がもたらす社会的な混乱を、むしろ淡々とした語り口で展開してみせた、今日的感覚の一篇。ただ、その描写が登場人物周辺に集中していることが、この作品のスケール感を決定しています。

  • 向井 千秋

    情報の一ビットだけを反転させるウィルスが、数字の表示にズレを起こさせる社会がすでに始まっているという警告を発しているところに現実味があり面白い。

  • 真鍋 真

    少額の詐欺がクレジットカードで横行している現在、未来でも自分がしっかりとチェックをしておかないとならないなんて、がっかりしてしまいますよね。ひとりひとりがデジタルリテラシーをもった社会というのは、この作品に描かれている未来だったりするのかもしれません。

  • 牧野 隆

    ビット反転ウイルスの結果撹乱した未来社会ですが、(作者の意図と思いますが)風景画のように淡々と表現されていて臨場感が不足気味です。当事者としての混乱が実感できると、さらに良い作品になると思います。

  • 滝 順一

    コンピューター制御の表示機器が確率的に気まぐれな表示をする社会。大混乱かと思いきや、意外に人々は冷静に適応している。計数管理が細かい現代社会への風刺とも読みとれる。

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一般部門 優秀賞(日本精工賞)

「プラスチドα」

鈴木 創

1956年北海道生まれ。北大大学院修了後、アルバータ大、北大、高知大を経て2000年から愛媛大教授。専門は環境微生物学。

< 作者コメント >
シートン、戸川幸夫などの「動物文学」はあるものの、行動・表情の不明な「植物」や、目に見えない「微生物」には文学ジャンルがない。私は仕事がら科学論文や教科書を書いて来たが、全て、言わばノンフィクションである。今後は、それに加えて発展形としてフィクションの「微生物文学」を書いていこうと考えている。見えない生き物への畏敬の念、彼らに振り回される人間の愉快さと感動、そして少しの恐怖を伝えたい。

審査員コメント

  • 東野 司

    プラスチドの必要性やその展開も、論理立てて構成されています。また、専門用語もストーリーを追うのに苦にならないように工夫して説明されて、好感が持てました。最後に行くにつれ、ややラストが見えてきてしまうのが残念なところでした。

  • 押井 守

    宇宙空間に進出した「独立栄養系の人間」という設定を、判り易く解説している語り口には好感が持てます。結末に意外性が乏しいのが残念ですが、SFの初心者にも易しい、バランスの良くとれた作品になっています。

  • 向井 千秋

    人体が光合成機能を持ち独立栄養系システムを構築していける時代に、生物の進化や種の存続とはどういうことなのかを考えさせられる作品。

  • 真鍋 真

    従属栄養生物である人間が、宇宙に長期滞在するために、独立栄養生物である植物の力を借りることが出来たら便利ですよね。しかし、その結末はホモ・サピエンスという種を自らが捨てることにつながることになってしまうようです。ホモ・サピエンスを絶滅させずに進化することは有りうるのか?

  • 牧野 隆

    最後の変異プラスチドαと人間に遺伝子が混在した赤ちゃんが、人類としての進化なのか、新しいフランケンシュタインの誕生なのか?この点が新しい視点に見える。その意味で、“進化”以降の表現を充実させたら、もっと面白い作品になると思います。

  • 滝 順一

    宇宙生活のため独立栄養で生存できる体への改造。それに伴う大きなリスク。科学的な道具だてはしっかり書きこまれている。その帰結として人間はニュータイプに進化するのか。におわすだけでなく、もう一歩踏みこんでほしかった。

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学生部門 グランプリ(星新一賞)

「2045年怪談」

松尾 泰志

九州大学工学部在学中

< 作者コメント >
このような名誉な賞をいただき光栄です。少年時代の豊かな読書経験を支えてくれた星新一氏の賞なので、なおさら感慨深く思います。科学技術の進歩は人々の間で語り継がれるフィクションにも変化をもたらし、怪談話であろうとその例外ではありません。三十年後、どこかの放課後の教室で語られる怪談とはどんなものだろう。そのようなことを考えつつ書きました。楽しんでいただけたら幸いです。

審査員コメント

  • 東野 司

    うまい!です。核となるアイディアと論理部分の整合もよく、ストーリーになじんでいます。話の構成、最後のオチも決まっています。現代における人の存在のあり方への考察も良く、たとえオチがなくても、グランプリにふさわしい作品だと思います。ただタイトルはもう一考を。

  • 押井 守

    社会を成立させるものが技術そのものになった時、技術的に認知されないものは存在しない、という今日的な主題を「幽霊」という言葉で捉える視点が感覚的に了解され易くなっています。キャラクターの造型も見事です。

  • 向井 千秋

    個人やその感情までもがすべて認識される時代や、その時代に認識されない人が幽霊として描かれている怖さが描かれていて面白い。

  • 真鍋 真

    テクロノジーでデータ化できないものは存在しないと思われてしまう未来。幽霊の存在の真偽を通して、未来の人間の存在そのものが問われているようにも感じられます。

  • 牧野 隆

    最新のテクノロジーを使いこなすことが人々に要求される未来社会では、テクノロジーから距離を置く人はアウトサイダーになってしまう。科学技術と人間の関係を考えさせる作品です。

  • 滝 順一

    最後のどんでん返しの評価は分かれるだろうが、意外性という点でプラスに評価した。非常によく練られたストーリーであり、科学技術に認知されない存在は存在しないというメタファーも生きている。

作品は日経ストアで無料配布しています

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学生部門 準グランプリ

「九月の旅人」

石原 計成

1993年、東京生まれ。2015年9月、早稲田大学を卒業。2016年4月から一般企業に勤務予定。

< 作者コメント >
中学三年生のとき『おーい でてこーい』に出会って以来、星新一作品から、そして記録に残る星さんご自身のお人柄からは、言い尽くせないほどの影響を受けて育ちました。もしこの作品が、物語の星雲とも言うべき星さんの芸術への(また、それを通じて出会った数々の先人たちへの)アンサーソングとして響いたならば、こんなに嬉しいことはありません。

審査員コメント

  • 東野 司

    壮大なイメージが、いくつもの素材を使って、丁寧にまとめられています。やや生硬で、メッセージ性が強く出すぎているところもありましたが、それが話を妨げるほどのものにはなっていません。

  • 押井 守

    人間の歴史と記憶の壮大なスケールを爽やかな語り口で書き上げた手つきが魅力的な一篇です。文中に散りばめられた楽曲名が時代を感じさせるのも印象的。ただし、戦争の記憶を巡る記述に、やや甘さが感じられるのが気になります。

  • 向井 千秋

    認知症の原因の新説や記憶しておくべきことを忘れないようにという思いが情緒的に読みやすく書かれている。

  • 真鍋 真

    個人が経験したことのないことからも、人類の経験から学ぶことが出来ることが文明だとすると、滅亡してしまうかもしれない人類の経験を未来に託そうとする試みは、人類にとって最も根源的な営みなのかもしれません。

  • 牧野 隆

    数々の技術的アイディアがスピード感を持って展開する楽しい作品でした。人類が残すべき記憶を、グローバルに、もう少し大きく設定したら、さらに良い作品となったと思う。

  • 滝 順一

    細部までよく考え構成された作品。戦争の記憶を残すというメッセージ性は読む人によって評価が分かれるかもしれない。応募時期が戦後70年にあたったことの反映だと推測される。若い人たちの戦争への思いだと前向きに受けとった。

作品は日経ストアで無料配布しています

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学生部門 優秀賞

「spares」

朝蔭 あゆ

1992年 東京都出身。白百合学園高等学校卒、聖マリアンナ医科大学医学部在籍。

< 作者コメント >
このような素晴らしい賞を頂けることになり、大変光栄に存じます。自他ともに認める文系脳でありながら理系大学の末席を汚しておりますが、学生生活の最後に、ねじれたアイデンティティをこうした形で結実させることができました。この貴重な機会をくださったすべての方々に、この場をお借りして御礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました。

審査員コメント

  • 東野 司

    日常の何気ない風景描写に好感が持て、またそこからの展開は意外性を持ってよく書けていると感じました。読みやすく、世界観も保たれ、素材の加工の仕方も適切です。ただ、ラストはもう少し突っ込んだ形があると、より良かったかと思います。

  • 押井 守

    限られた文字数の中に濃密なドラマを組み立てようとした意欲作です。展開とキャラクターの造型が、ややテレビドラマ的なのが気になりますが、日常の描写にリアリティを追及している点に好感が持てます。

  • 向井 千秋

    臓器のスペアーバンクができる時代において、倫理などの問題点の提起、ストーリー、主人公のしたたかさが面白い。

  • 真鍋 真

    自分のパーツのスペアがあることは便利ですが、自分のスペアがあることに違和感を感じるのが人間ではないでしょうか。オリジナルとコピー、デジタル的なものであれば、その違いには意味がないのかもしれません。

  • 牧野 隆

    人体のパーツの再生事業ですが、その企業の発展の歴史がサスペンス風の仕立の作品で、謎解きが面白い作品です。娯楽作品として、楽しめました。

  • 滝 順一

    ストーリー性があって読みやすく文章力にたけている印象がある。富のために近親者の死をも利用する強欲さ、さらには暗い過去をのりこえてしたたかな主人公の生き方を描く狙いはよくわかる。ただ、意外性にやや乏しく、ラストの落ちが十分に生きていないきらいがある。

作品は日経ストアで無料配布しています

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ジュニア部門 グランプリ(星新一賞)

「無色の美しさ」

新井 清心

< 作者コメント >
ぼくは、軽井沢の自然を見て、とても美しいと感じました。川のあい色、木の葉の一枚一枚の黄緑色や深緑色、バッタの羽のつややかな光る色。この美しい色をもとに作品をつくることができないかと思い、色をテーマに書きました。ぼくの書いた作品がこのようなすばらしい賞をいただき、とてもうれしく思います。ありがとうございました。

審査員コメント

  • 東野 司

    驚きました。ジュニア部門で、これほど論理的に考えられたアイデアと、それに適合したストーリーに出会えるなんて。見事です。ともすれば魔法のように処理されがちな素材を、科学的な話に昇華させた志に感銘を受けました。文句なくグランプリです。

  • 押井 守

    このまま絵本か短篇のアニメーションにしても成立するような、色彩感覚の豊かな一篇。「色彩」という語り難いテーマをストレートに記す語り口は、これは子供ならではのもので、その意味でもジュニア部門に相応しい。

  • 向井 千秋

    マジカルインクで世の中が虹色になって皆が幸せになり、その後の水不足の解消にもインク会社の社長の取り計らいが功を奏し、人工的なインクのではなく自然の色が世界に戻ることで皆がさらに幸せになるというファンタジー的な展開が楽しくて良い。

  • 真鍋 真

    カラフルなインクが地球の水危機を救い、だれもがもともとの色の美しさに気がつかされる、心温まるお話です。インクを水に変えてしまう魔法の「粉」の正体はわかりませんが、その分、未来に期待を抱かせてくれる要素かもしれません。

  • 牧野 隆

    人工的な色に満たされた社会からの解放感と、自然の色のすばらしさとの対比が素晴らしい作品です。未来社会における自然のすばらしさへの賛歌。

  • 滝 順一

    マジカルペンキの存在は荒唐無稽なものの論理が一貫している点を評価。最後は自然がいちばんとのメッセージも生きている。全体として幸せなトーン(地球温暖化で災害が起きているにもかかわらず)が魅力的だ。

作品は日経ストアで無料配布しています

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ジュニア部門 準グランプリ

「イッシントウケイ」

神山 帆高

2000年生まれ、万障お繰り合わせのうえで、絶賛受験勉強中の那覇市立城北中学校3年生。きっと、マンション一辛口の父、絶対日本一おもしろい兄、かわいく優しい母、そして登場人物のモデルになった生意気な弟(後に。。。設定を兄弟から姉妹へ変更)との5人家族。趣味は読書、釣り。将来の夢は(昔)ジェダイの騎士、(現)生物学者。受賞当日は学校の卒業式。希望する高校の合格通知が今一番欲しい15才。

< 作者コメント >
2015年夏、僕の目に日経新聞の星新一賞の広告が飛び込んできた。5,000字の小説。。。これなら今まで頭のあちこちに散らばっていた様々な言葉やアイディアを僕なりに紡いで、形にできるのではないか。そうして僕は受験勉強の合間に、テーマである100年後の未来現実を何度も行き来し、設定も沢山変更し、ようやく〆切2日前に小説を書き上げました。主人公の名前を見て、星先生がくすっと笑ってくれたら嬉しいです。

審査員コメント

  • 東野 司

    あざやかです。アイデアもさることながら、その構成が素晴らしく、インパクトのある作品に仕上がっています。何でもない描写が後にいくにつれ、意味を持ってくるなど、ストーリーもよく考えられています。ある種の「暗さ」もありますが、それこそ文学であると捉え、高い評価となりました。

  • 押井 守

    取り返しのつかない行為への恐れや後悔という、暗い想念から出発して一篇の物語を生み出す手腕には作者の早熟な才能と資質を感じます。表題のカタカナ表記には、作者の言葉に対する鋭い感性が表れています。

  • 向井 千秋

    罪を犯した人に対して被害者とその家族の人生を疑似体験させて、その罪の重さ、恐ろしさ、悲しさを教えるという発想の面白さと、それを伝えるストーリーがよくできている。

  • 真鍋 真

    歳をとればとるほど、後悔する出来事が多くなっていくように思いますが、ジュニア部門でこんなお話が出てくるとは思いませんでした。大人から「相手の立場になって考えてみなさい」と言われることがあるからでしょうか?後悔させられますよね。

  • 牧野 隆

    人種の融合が進む未来社会における重犯罪者への新しい刑罰。犯罪者への憎しみと自己反省の念と刑罰がうまく表現されている作品。作者の次の作品も読んでみたいと思います。

  • 滝 順一

    読ませる文章力がある。物語の世界に引き込まれ、ラスト近くで見事などんでん返しがあり、タイトルのナゾも氷解する。犯罪被害者への強い同情の気持ちが創作の原点にあると推測した。

作品は日経ストアで無料配布しています

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ジュニア部門 優秀賞

「虫食い」

黒沼 花

世田谷区立八幡小学校、6年在学中。2015年、第2回日経星新一賞ジュニア部門にて優秀賞受賞。

< 作者コメント >
受賞のお知らせを聞いて、今年も受賞できるなんてととても嬉しい気持ちです。今年は受験勉強で書く時間が十分に取れませんでした。科学の記事等から得たアイデアを活用して、夏休み入ってすぐに一気に書き上げました。春から中学生になりますが、中学校生活の中でも新しいことをたくさん学んで、来年も「星新一賞」にチャレンジしたいと思います。本当にありがとうございました。

審査員コメント

  • 東野 司

    細かいところまでよく考えられた作品です。アイデアを裏打ちするいくつかの設定も丁寧に構築されています。ラストも良いのですが、ややそこに至る展開がもたついていたところが残念でした。

  • 押井 守

    未来社会とゴキブリと言えばSFの定石ですが、この作品にはそれに止まらぬ、「虫を食べる」という特殊な行為への偏愛も感じられ、その意味では特異な作品でもあります。結末の付け方が残念。もうひとつ捻りが欲しい。

  • 向井 千秋

    食糧として虫を常食とする時代や、どのような時代になっても禁断の実を求めてしまう人間の性が面白おかしく描かれている。

  • 真鍋 真

    ゴキブリのような昆虫は、人類が登場する前、何億年も前から変わらずに生きていて、おそらく人類が滅亡してもしぶとく生き続けていくのでしょうか。人類は彼らから何かを学ぶことができるのか、問われているような気がしました。

  • 牧野 隆

    人口増と食糧難からの昆虫食をテーマとしたSFはたくさんあるが、新しいルールを導入し、話が展開するのが秀逸。ルール破りが美味しい生活は、人間社会の本質か?

  • 滝 順一

    理系的な発想に基づき、よく背景を調べたうえで書き込まれている点を評価したい。食べてはいけないと言われると、逆に食べてみたくなる。そんな心情もよくわかる。ラストのオチの切れ味がいま一歩、生きていないのが残念だ。

作品は日経ストアで無料配布しています

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ジュニア部門 優秀賞

「ロボットマグロ」

日野 千枝里

< 作者コメント >
入賞の話をきいてびっくりしました。学校で星新一さんに興味をもって、すごく面白いお話だなあと思っていたからです。よく食べるマグロがどうなっていたらいいかなと想像していたら、100年後には色々なものがロボットになっていると思ってこの話を書きました。物語を書くことは昔から好きだったので、受賞できてとてもうれしいです。

審査員コメント

  • 東野 司

    何なんでしょう。この作品は。とても魅力的で印象に残るのですが、それが何なのか一口に表現できないもどかしさ。楽しいです。何か読み終わった後、幸せな気持ちになります。読まれた人はきっと私と同じように感じられたと思います。まだの方はすぐにお読みください。

  • 押井 守

    何をどう説明すればこの作品の面白さを伝えられるのか、子供の想像力の持つ不可思議さを感じさせます。独特のテンポ感は意図的なものとは思えず、その意味でこれもまたジュニア部門に相応しい一篇です。

  • 向井 千秋

    ロボットマグロの頭から残り部分の生体が製造できるという発想は夢がある。作者はマグロを食べるのが大好きなのでしょうね。

  • 真鍋 真

    ロボットから作りだされるマグロの身が、本来のマグロの餌であるイワシ、ムロアジ、イカから出来ていることに驚かされました。美味しいマグロは生物起源でなくてはつくれないところに、真実さを感じました。

  • 牧野 隆

    作者の“マグロのお寿司”好きを感じます。やっと完全養殖まぐろの生産が可能となった科学技術ですが、100年後には、このようなロボットマグロが完成して、安い値段で美味しいマグロのお寿司がたくさん食べられるといいですね。

  • 滝 順一

    科学的な論理が通っているようで通っていない。お話としてももう一歩展開が欲しいところだが、そうした弱点を補う楽しさ、お話をつくることの喜びみたいなものが感じられる。そこがいい。

作品は日経ストアで無料配布しています

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ジュニア部門 優秀賞

「心を持つ花」

髙田 彩未

2000年神奈川県生まれ。シンガポール日本人学校小学部クレメンティ校卒業後、シンガポール日本人学校中学部ウエストコースト校に1年生まで在籍。2年生より立命館宇治中学校在籍。バトントワーリング部所属。

< 作者コメント >
友達に薦められて星新一さんの小説を読むようになりました。今では一番好きな作家さんなので、この度このような賞をいただくことができ、とても嬉しく思います。初めて受賞について聞いたときはとても信じられませんでした。沢山の人が応募した中で私が選ばれたというのは、とても誇らしく思います。これを機会に、星新一さんの本はもちろん、もっと多くの本を読んでいきたいと思っています。

審査員コメント

  • 東野 司

    切ない話ですが、「花」を語り手にしたところが、それをより切ない話にしています。よかったです。ただもう一つ、語り手の「花」の感情の動きが一つ一つ丁寧に描写されていれば、読者により強く伝わったかと思います。

  • 押井 守

    とてもロマンチックで、古典的とも言える作品ですが人間でない「花」の視点で描かれているのがこの作品のユニークなところでしょう。結末が容易に想像できるところが難点ですが、枯れない為に咲かない花という表現は非凡です。

  • 向井 千秋

    植物に心があることや、咲いてしまったら散るしかないから咲きたくないが、好きな人の笑顔を見たいから咲いて散っていくという自己犠牲愛がロマンチックに描かれているところが良い。

  • 真鍋 真

    花は何も話してくれないのに、花に話しかけたくなる人は少なくないのではないでしょうか。植物が自分の気持ちを理解してくれるとしたら、どんな風に植物は意思表示をするのか、考えさせられました。

  • 牧野 隆

    心を持つ花の育てている人への愛情から始まる切ない作品です。花の心情が語られるのに対して、育てている人の心情は語られていないが、人と花のコミュニケーションがあるといいと思います。

  • 滝 順一

    花の心のけなげさが心を打つ美しい話。私たちは花の心を知らないが、花に心を励まされている。人間と花の関係性をSF的(ファンタジー的)なアイデアで膨らませた点に魅力を感じる。

作品は日経ストアで無料配布しています

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第3回 日経「星新一賞」総評

理系文学という新たな概念のもとに始まった日経「星新一賞」も、3回目を迎えることができました。多くの作品を寄せてくださった応募者の皆さん、そしてご多忙にも関わらず、最終候補を読み込み、朝早くから夜に至るまでの長時間にわたる審査会に出席いただいた審査員の皆さんに、心から敬意と感謝を申し上げたいと思います。
今回から星新一賞に、学生部門が新設されました。審査員の皆さんには、これまで以上の負担をお願いすることになりましたが、結果としては、審査会は予想以上に順調に進み、素晴らしい作品を選ぶことができました。司会進行を担当した私としても、審査員の皆さん、そして作品を応募してくださった皆さんに感謝したいと思います。
審査会は例年と同じく、ジュニア部門から始めることになりましたが、まず、新設の学生部門から、話を始めたいと思います。
学生部門の応募作品の数、その質についてですが、両方とも、予想を超えていました。ことに作品の質は一般部門でも充分に評価されるものがありました。審査員の方から、アイディアだけではなく、小説としての完成度も評価の対象にするというハードルを高くする趣旨の発言もありましたが、それを見事にクリアーする作品が幾つもあったのは、正直なところ、ほっとすると共に、皆さんの能力の高さに感心しました。ただ、アイディアの整理が足らず、結果として舌足らずな作品になってしまったものも、少なからずありました。一万字という枠の中で、何をどう語るか、再考すれば遥かに良いものになったと思えるものが何作もあったのは、とても残念でした。応募する前に再読するという最低限の努力が成されていないように思えた作品も幾つかあり、本当にもったいないと思いました。
学生部門は、この賞が目的とする若い皆さんに理系的なアイディアや考え方に関心を持ってもらうために新設したものです。今回の結果は、その意図が充分に理解されているという手応えを感じましたし、その可能性を強く感じました。
ジュニア部門は、今年も充実していました。審査員からも、ジュニア部門は素晴らしいという意見が多くありました。ことにアイディアの素直さには、大人では到底太刀打ちできない、脱帽するという様な意見まで出ていました。過去の例と比べても、今回はレベルが高くなっているように思えました。アイディア、そして物語の作り方に、進歩が見られたと思います。ただ、もっと、自由であっても良いのではないかという気もしました。皆さんが楽しそうに書いていることを感じるのは、とてもうれしいことです。もっと楽しくなってください。偶然でしょうが、食料問題にテーマを絞ったものが幾つもありました。他の2部門ではなかった傾向なので、ここに書いておきます。皆さんの未来を考えていくと、避けられない危機であるのは確かです。それは大人たちが考えるべきことでもあるのですが、ジュニアの皆さんの方が、その危機に対する実感があるのかもしれません。
ジュニア部門では、ファンタジイ的なものは許容されていますが、一般部門では、その辺りの線引きが少し議論になりました。結論としては理系的な視点が重要であるということになりましたが、「進歩した科学は魔法と区別ができない」という様な言葉もあります。厳密な線引きは難しいかもわかりませんが、一般部門と学生部門は、それを常に頭の中に置いてもらえればと思います。
全体的なことですが、宇宙をテーマにしたものが、意外なほど少ないと思えました。未来がそのまま宇宙ということにはなりませんが、それでも重要なテーマではある筈です。その代わりにというのも、妙ですが、ロボットを扱ったものが目につきました。それと共に、科学や技術によって、失われたものを取り返すというアイディアのものが幾つもありました。社会そのものが内向的になっているのかもしれません。そしてそれを突き破るのも、科学であり、テクノロジーであるとも思います。
第一回では科学と倫理の問題、第二回では科学とは何かという様なことがトピックで語られていました。今回はそこまで明確に出てはいませんでしたが、科学のもたらすものという様なことが底流にあったように思います。また、文学よりの論議も幾つかありました。選考会の中では、様々な視点が提示され、知的な刺激に富んだ議論が成されていました。長時間にわたる審査会でしたが、とても楽しくスリリングな時間が流れていました。順調に審議が進んだと述べましたが、事前の評価では上位にあった作品が、ポジションを落としていったり、逆に、下位の作品が、様々な意見が交わされていく中で、上位に昇っていったり、ドラマティックな展開が幾つもありました。議論を中心に置くというこの賞の審査会らしい展開だと思います。
最後に、今回受賞した皆さんにはおめでとうを、そして惜しくも入選を逃した方々には、次回もぜひ応募してくださることを願いたいと思います。

日経「星新一賞」最終審査会
 司会進行 鏡明

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